第4回
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その歯については昔から気になっていたといえばなっていた。
進行方向かって左上のいちばん奥の歯だ。
記憶が確かなら
  ひとつ手前の歯(A)が生えはじめる
 ↓
Aが生えかけなのに虫歯になり治療する
 ↓
いちばん奥の歯(B)がすごい勢いで斜めに生える
 ↓
Aの成長はBに阻止される
 ↓
AのBと重なっている部分が虫歯になる
 ↓
親しらずが待機する
 
 
つまり問題の歯は、1本手前の歯が生えてくることを阻止し、磨きにくくさせ、虫歯になりやすくさせつつ(幸いここだけは気を使っていたので虫歯は進行していなかった)、それ自体もかなり虫歯になっているということだ。さらに親しらずが迫ってきている。
だからこの歯を抜いて、陥没している歯と親知らずを生かそう。それが今回の抜歯の目的だ。

例によって抜歯専門の先生に歯を抜いてもらった。
今回は前回にもまして痛みがなかった。
すっきりさわやかになったのも、ほんのつかの間だった。

最初は歯肉がこびりついていると思ったのだが、実際はそこに何かが埋まっていることに気がついた。
自分の歯なのに憚りながら、先生たちが席をはずした隙に手にとってみた。
抜かれた歯の側面、己が生えることを邪魔していた歯に隠れていた部分に、ものすごい大きさの穴があき、そこにおそらくここしばらくわたしが食べたもののカスがぎっちり詰まっていたのだ。もちろん臭い。すごく臭い。
千年の恋も冷めるビジュアル、そしてにおいだ。
こんなものが口の中にあったのか…。ここ数年…。
ひどく気が動転してしまった。
そしてこっそり持って帰ってきてしまった。
家に着いてから、中身をほじくり出すべきかどうか悩んだが、保管することを考えすべての食べカスを取り除いてみた。

   
 
穴は思ったより広く深かった。
爪楊枝で大方のカスを出したのだが、今更だが不安になるくらいにどこまでも掘れるのだ。ご丁寧に歯磨き粉をつけて磨いてみたが、もちろん後の祭りである。
まったくもって見事な虫歯だ。
かざしてみると、明かりが透けて見える。歯の厚みの半分以上の深さなのだ。どうせなら貫通させればよかった。
どうせなら…。
 
 
みなさまにショッキングな画像を、特に食事中の方には食欲をなくす文章まで読ませてしまったことをここにお詫び申し上げます。
わたしはその日からこの歯を戒めとして持ち歩いていて、携帯のストラップにするかどうかは思案中です。
もしも歯が痛むのに放っておいている人がいたら、いますぐ病院に行ってください。歯磨きをおろそかにしている人がいたら、いま一度考えてみてください。
どんなにすてきな服でも、よほどたいせつに扱い体系や趣味が変わらないか、短命でない限り、一生着ることはできません。でも歯は、どんなときでもあなたの口の中にいるかけがえのない一生ものです。

わたしは28歳の冷夏、歯を2本抜いた。
歯を磨かなくても誰にも怒られはしないが、自分の永久歯を失い、自分自身の将来と両親を思うとドリルで削られるように胸が痛む。
おとなとはそういうことだ。

   

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