第10回
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■ Disney(1)

 子供がうまれた2000年は我ながらよく働いた。仕事で忙しい上に、労働組合の大役を任されることになったのだ。「業務が忙しく、社歴3年で会社のこともロクにわからない上、子供もうまれたばかりでできません」と激しく断ったものの、中途入社で歳をくっているのが原因なのか、聞き入れてもらえなかった。今の会社の組合は前職の組合に比べれば比較にならないほど活動が活発で、会議は週に2、3回に及ぶ。その会議で朝方まで討論をしたり、休日返上で組合活動を行った。家庭がおろそかになってしまう事もあり「組合離婚」という言葉があるという。

 昼間の組合活動のために少しも進まなかった本業の残務処理を夜間に行う日々が続いた。帰宅すると当然子供は夢の中。一番かわいい時期に子供に接することもなく暦がすすみ、子供はいつの間にか大きくなっていくのだろうなという私の予想は今でも当たっている。私は妻の手作りの料理を食べることは今でもめったにない。睡眠をたくさんとりたいので朝ギリギリに飛び起き朝食を食べずに出社。ランチは外食で、夕方を過ぎると会社の食堂もしくは社外で夕食をとり、仕事をした後に帰宅するというのが日課なのだ。休日の夕食は妻のストレス解消のために、手をかけさせない外食が多い。

 珍しく早めに帰宅すると子供がハイハイしながら玄関にお出迎え。何と感動的だろう。妻はえらくビックリしていた。「なんでこんな早いとー!」久々に食べる手料理がえらく新鮮だったり、普段いない私を見て子供が何だか興奮したり。

 そういう生活なので、妻にはジワリジワリとストレスが蓄積されていった。休日に少しは私が子供の世話をするものの、平日は全くノータッチ。「すみません。子供をお風呂に入れるので全てのことをほったらかして退社させて頂きます」と言って帰宅できるわけもなく、そもそも私の残業時間など大した量ではないことを私は知っている。

 社内を見渡しても私より忙しい人などいくらでもいて、同期の友人は一ヶ月休みが無かったりする。総理の国会答弁の文書を書いていた官庁の友人は終電で帰宅して始発で出社するという生活をしていた。終電に乗り過ごせば帰りのタクシー代が大変なのでよく省庁に宿泊し、月の残業時間が200や300に及ぶそうで、私はまだ甘いと感じる。しかし、仕事も組合も「できて当たり前」と見なされる環境の中、心無い人のトゲのある言葉を耳にしてしまうと、「じゃー、お前がやってみろよ!!」と言いたくなり、やるせない私のイライラも募り、育児ノイローゼになりかけた妻に「子供がうまれたからと言って仕事が減るわけじゃないんだ」と怒鳴ってしまったこともある。(反省)

 そういう時には実家に帰ってもらい、ジジ・ババと一緒に過ごしてもらってリラックスしてもらった。いい解決方法ではあるが、心身共に疲れ果てて辿りついた3LDKに一人ぼっち。決して広くはない家だが、一人にはあまりにも寂しい空間だ。普段家にいないスポーツ選手などはどういう気持ちなのだろう。将棋棋士でタイトル4冠を保持する羽生善治氏は「子供がいつの間にか大きくなっていた」と新聞で語っていた。彼らに比べればまだ恵まれているとは思うが、多くの父親はどのように仕事と家庭の両立を図っているのか不思議だ。恐らくは家庭が犠牲になっているに違いない。

 2000年問題のために、紅白歌合戦のステージと同化した小林幸子を職場で先輩と拝み、2001年が始まった。地球の自転と公転はいつからこんなに速くなったのか。子供はいつのまにかつかまり立ちをするようになり、いつの間にか一歳を迎えた。
人間であるにも関わらずに二本足歩行ができないという事実が私をとても不安にさせていたが、男の子は歩くのもしゃべるのも遅いらしい。身長と体重はちょうど平均ぐらい。何より健康であることを祝おうということで、両家のジジ・ババが福岡に勢ぞろいして子供の誕生会が「すし富」(*注1)で盛大に(?)行われた。子供を育てるのは理論どおりにいかないし、奇麗事でも済まされない。そんな現実の中でつかの間の休息を迎えながら、妻の中では密かな計画が立てられていた。そして、それは仕事で疲れ果てて帰宅したある日、私の耳元に囁かれた。(つづく)

*注1
福岡市南区の「すし富」
シャリがハチミツ・昆布・味醂で味付けしてあり、一見黒く、甘い味がする。ネタがかなり大きく、おいしく値段も良心的。
常連には「これ、サービスです」と出してくれる、摩り下ろした生姜がチョコンとネタの上に載っているアジのニギリがかなりの美味。
殆どのメニューについてくる「うるお汁」は脇に添えてある柚子コショウを溶かして飲めばこれまた絶品。


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