第10回
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■ 日立鉱山電車廃線跡地紀行5

 中州階段を通り過ぎ、和菓子屋の角を右折してみた。なぜ右折してみたかというと、「多恋人」というスナックの看板が見えたからだ。

【スナックのネーミング法則】

「多恋人」とか「来夢来人」とか「待夢」とか、いったい誰が最初につけたのか。小柳ルミ子あらためrumicoか。
 店を持つというのは大変なことだ。一世一代。水商売を始めてからイヤな客にも文句を言わず、ふきとり用コットンを節約したりしてコツコツ貯めたお金で、ようやく自分のお店が開けるの! そんなときに、何の魔がさして「多恋人」などとつけてしまうのだろう。「恋人が多い」ママのもとへ、客がわざわざ通うのか。でもなぜか絶対あるこんな店名。誰かにはアピールする。


 この店名から受けるイメージは、ちょっとモダンな店内(ベロアの絨毯じゃなくてアクリルフロアとか)、ちょっと派手めのママ(40代だけどアライアっぽい服着用)、ちょっと洒落た酒(サントリーのカクテルバーとか)といった、80年代のちょっと都会派な感じ。リバイバルブームの昨今、ひょっとしたら流行するかもしれん。
「題名のない音楽会」という番組名も、なんかこのテのスナックに通じるといつも思う。番組の宣伝で「巨匠が題名にやってくる!」と言っていた。題名。題名が「ない」はずだったのに題名が題名。

 

 
 なんかもう廃線からものすごくズレてきたし、多恋人からもズレてきた。だから廃線跡を歩くのはやめて帰ろう。
 と思ったら、「新天地」という看板を見つけた。写真では見えないが、建物の背面が花崗岩の蔵で、かなり大きな建物だ。側面には左右に10個ぐらいの出入り口あり。たぶん飲み屋横丁だったんだなー。
 同じような造りの蔵を、板橋のエスビー食品で見たことがある。エスビーのスパイス蔵は、昭和10年にできた。もしかすると「新天地」も、そんぐらいにできた建物ではないだろうか。仕事帰りの鉱夫たちも、ここで飲んでたかもしれない。朱色の柱は、いかにもカストリ焼酎とか置いてそうないんちきムードをかもし出している。カストリは戦後か、まあいいや。

 夜になれば店があくのか聞き込みしてみたかったが、近所にひとけがなくあきらめ。夏休みにまた帰省した際の宿題を残して、廃線跡の旅はひとまず終了。今度は多恋人にも入ってみたいなー。ちらっと思った。

 


 

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