第1回
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■ 寂しいまちあかりを探して

 私は、東京の町を歩き回って原稿を書くという仕事をしてる。ほかにも、インターネットを歩き回ったり、本の中を歩き回ったり、とにかくいつもてくてく歩いて何かを見て、それを書く仕事だ。
 だから足はとても丈夫で、目はとても近視で、ノートはいつもごちゃごちゃです。

 先週まで、街路灯をさがして歩いていた。いや、街路灯なんて「探す」必要は全然ない。商店街にでもいってちょっと目を上げれば、そこにはいろんな形の街路灯がずらっと並んでいる。でもよく見てみると、どれも洒落た新しい街路灯。水銀ランプでまぶしいぐらいに明るい街路灯。
 私が探してるのはそんなんじゃないの。
 ホーローのシェードの下で白熱灯がぼんやり光る、木の電柱が似合うような、寂しくて侘しい街路灯だ。

 ところで「街路灯」と書いてきたが、木の電柱にくっついてるような照明の本名は「防犯灯」という。財団法人全国防犯協会連合会や、社団法人日本防犯設備協会の推奨照度に基づいて設置される。その基準値は、鉛直面照度0.5ルクスで20メートル間隔。0.5ルクスっていうのは「顔の向きがわかる」程度です。とても暗い。電柱にくっついてる場合は40メートル間隔ぐらいになってしまう。とーーても暗い。
 裏路地の防犯灯はそんなわけで、白熱灯でこそないものの、寂しくて侘しいを通り越して、暗くて怖い。

 その反面、商店街の街路灯は、アンタまぶしすぎと言いたくなるほどまばゆい光を放っている。商店街で作るおそろいの街路灯は、防犯灯でもあるということで自治体や電力会社から補助金が出る。ファサードがそろってなくても街路灯がずらっとそろえば、○○商店街の目印になる。ポールからバナーの宣伝旗もぶら下げられる。明るい町並みはお客さんだって寄ってくる。
 それで商店街は、まぶしすぎるきれいすぎる新しすぎる街路灯をそろえたがる。商店街のあかりは、昼間のフリをするあかりだ。

 そんな街路灯、私はいやなの。陰鬱な闇も、似非の昼もいやなの。

 毎日あてなく町をうろついていて、高円寺駅南口のガード脇に古い古い街路灯を発見した! ポールはコンクリート製でイオニア風の溝があり、頭部は裸電球に小さなブリキの笠がついているだけ。ああ、もしこれが点灯したら…と思ったが、灯具は完璧に破壊されている。だめか……。
 中野の居酒屋前には、ホーローシェードの白熱灯ブラケットが設置されていた。されていたけど、ブラケットが10個ぐらいくっついている。ご主人が照明コレクターでもあるのだろうか。いずれにしてもこれじゃ明るすぎるよ……。

 そんなある日、別の仕事で江戸東京博物館に出向いた。江戸博は、石器時代から現代までのトーキョーの歴史を知る博物館だ。実物大の復元建造物や精巧なジオラマが展示されている。
 そのジオラマのひとつに「戦後の新宿闇市」風景があった。

 あ。
 これだ。
 闇市にぶら下がった裸電球は、私が探していた、寂しくて懐かしい「夜の町」をひっそりと照らしている。
「戦後は電力事情が極端に悪く、電球をつけてもひどく暗かったんです。『闇市』の名の由来はそこからとも言われています」
 お姉さんの話を聞きながら目を凝らして闇市を眺めた。シケモクを集めて紙巻煙草を作っている少年、復員してきたばかりのやつれた日本兵、アコーディオンをかきならすオヤジ。
 闇が闇でなくなった日本で、闇を探すのは難しい。


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