第16回
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■湯布院温泉に驚く

 最近の湯布院を歩いていると、すざましい店がたくさん出ていて、驚かされる。というか、温泉地としては、『えろー俗化が進んでますなああああ』って感じなのだ。

 9月に入り、夏休みも終了すると、九州の観光地は、修学旅行受け入れ施設以外は、閑散とするのが常である。ためしにYahooの旅ゲーターで検索かけてみるといい。

 三ヶ月先まで予約が入っているのは、九州では湯布院温泉(大分県)と、黒川温泉(熊本県)だけだ。雲仙(長崎県)も嬉野(佐賀県)も空席がらがらなのである。それほど、人々に支持されている湯布院だが、率直にいって居心地がいい町とは思えない。


 金鱗湖の近くで『シャガール美術館』が登場していたのには、いきなりびっくりしたけど。湯布院とたいした関係もないであろう。金鱗湖に面した一角に出現した安普請の洋風建築は、旅情ぶちこわしのさいたるもので、周囲のひなびた景観を破壊している。できが悪いカフェテラスも付設してあって、しかも、そこにけっこうな観光客が入っていたのにもびっくりしたけど。

 また、通りを歩いていると、『猫グッズの店』とか『ティディベア専門店』とか、『犬グッズの店』とかがやたらめったらと並んでいるのだ。『ガラス工芸の店』とか、『ステンドグラスの店』とかも並んでいる。

 
 湯布院に昔から存在していたものを販売する店だけにしてほしい。そこまでの押し付けはしないけど、九州最高峰に位置付けられている湯布院温泉の中心地に、げさくなグッズ集めた店を並べないでほしい。

 でも、これがけっこう人が入っているんだな。

 売ってる食べ物も、かなりの怪しさで、『トルコ珈琲』とか、『ねりもの天国』とか、やたらめったら、けばいアイスクリームとか、まずい煎餅屋とか、ワッフル系の菓子屋とかも軒を列ねていて、町全体があやしさの固まりといった具合なのだ。蕎麦やもあったけど、これが最悪にまずい。1500円もする蕎麦なのに。観光客をバカにしてるとしか思えん。店が自信をもっているので、余計に始末が悪い。

 『こんな得体が知れないものを、湯布院まできて、わざわざ食うかな』

 でも、お客さんでけっこうにぎわっているのである。


 また雑誌や情報誌で、『すてきいいいい!』に撮影されている店鋪や喫茶店も、実際にでかけてみると、『なんぢゃこりゃあああ。カメラマンの腕がよっぽどいいとばいねえ』と現実の店を見て、絶句するような、店にもたくさん出会う。概ねが安普請である。ちゃちい美術館や、博物館もどきが、それぞれ入場料を500円とか600円に設定している。

 少しばかりオシャレに改装したり新築した酒屋とか土産物やは、『もうけたるぞ』という気合いと『観光地らしく遊び心いっぱいに作ってみました』という、野心がいり混ざった建築物なのだが、実のところ、どの狙いも半端で、失敗だらけのぶざまな建築物が軒を列ねる結果になっている。

 そんな感じの、お土産物やが並ぶ、沿道は、なんかまったくもってへんちくりん。

 狙いをはずしまくった建築物の行列の中を歩いていると、磁場がずれてゆくような居心地の悪さなのである。

 旅館に着いたら、旅館から一歩もでないで、温泉につかり、町は見ないで素通りしよう。それが、湯布院を実感する最大のお薦めだ。

 しかし、肝心の温泉旅館も、居心地がよいかどうかは疑問である。価格だけは一様に高い。ほかの温泉地より二、三割は高めの設定だ。しかも、そんだけの居心地のよさを表現できているのか。

 湯布院の隆盛を育て、長い間リードしてきた『玉の×』も、2000年に東側に出現した建築物が、既存の施設とあまりに整合性を欠いていて、以前に比較すると『なんなのこれ?』って違和感を覚えてしまう。あのしっとりと落ち着いた玄関口の格調の高さはどこに消えてしまったんだ。

 『玉の×』以後、湯布院の隆盛を築き上げた他の旅館も、それなりに頑張っている。しかし周囲をあのような異空間に包囲されているうちに、本丸の旅館群そのものにも、少なからぬ悪影響をおよぼすようだ。写真映りがようばかりの旅館もけっこうあると思うよ。

   
 
 いったい、いつからこのようになってしまったのであろうか。まるで、福岡市早良区のシーサイド百道の最近だ。バブル絶頂期に生まれたシーサイド百道は、あの当時、おしゃれなレストランや、雑貨屋が集まる居心地がよい、かなり素敵な場所だった。

 しかし、百道を訪れる人に、その『すてき』は支持されず、現実に繰り返し訪問する、多くの人々の嗜好にあわせて、この15年の間に、これほどまでに当初の姿を激しく変貌させてきた場所はない。『なんで、ちゃちい結婚式用ウソ教会ができたとー』『なして、やすっちいオルゴールの店とかできたんかいな』『ゲーセンができとる!』と、失望を繰り返しているうちに、今では、ここ10年間一歩も足を踏み入れない場所になってしまった。

 そのシーサイド百道と、今の湯布院は似ている。

 
 

 たくさんの人々が訪れるようになった結果。人々に土産を買わせる多様な売店がどんどんできた。その繰り返しの果てが、町の中に、きっと都会とかでもどっかでうっている『犬グッズ』『猫グッズ』『熊グッズ』の集積という、およそ最初には考えられなかった、町並みが形成されていったのだろう。

 その異常ぶりは、冷静にならないと理解できないのかも。だって、たくさんの観光客が入っているから。観光地にそういう店が林立するのは、出店する側に問題があるのではなく、現代のわれわれが、そういう店の出現を、潜在的に望んでいる。そのことの証しなのかもしれない。

 人々の欲求こそが、湯布院を今みたいな悲惨な異空間に変貌させてしまったのである。悲惨と感じているのは、俺だけだけど。


 九州屈指の観光地に成長した湯布院を埋め尽くす、町の風景の異常さは、現代日本人が観光地に求める姿を体現したものであるのだ。でなければ、あんなけったいな店に、『うわあああ。かわいいいい』とか叫びながら、たくさんの人々が、入ったりしない。怪しいのは、観光地ではなく、湯布院でもなく、そういう町の出現を待っていた、我々自身であったのだ。

 やすっちい喫茶店で、珈琲を飲み、チャラチャラなお店で土産を買ったりして、とっても楽しそうでは無いか。カップルで、シャガール美術展を鑑賞して、そこのカフェから金鱗湖をながめているカップルもたくさんいる。俺が気色悪いと感じている『民芸なんとか村』という土産物売店の集積施設だって、こんなにたくさん人が着ているではないか。

 町中に突然ある、やすっちい鉄製のガーデン椅子セットにも、じいさんやばあさんが座って写真をとりあっていたりする。そうだ。みんな楽しんでいるんだ。異常空間なんて思っているのはきっと俺だけだ。

 楽しめないのは、俺だけで、湯布院をおかしいと思う、己のほうこそ、ずれているのではないか!とほほほほほほほ。きっと、そうなんだ。


 でも、俺は言いたい!だって、湯布院はもうかっている。偏屈な俺が一人くらい、居心地の悪さを主張しても、痛くも痒くもないはずである。

 だったら、俺は言う!今も九州最強の温泉地のひとつに違い無い、湯布院。

 『おかしいですよ』『そして、かなりヤバイヨ』


【俺の北部九州三大温泉地戦力比較表】

  湯布院 嬉野 雲仙
攻撃力 10
移動力 10
防御力 10
残 弾 10
   

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