第11回
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■bikitan10から愛をこめて!ネット将棋に死す!

 ネット将棋にはまっている。仕事以外の大部分の時間を、将棋に費やす人生なのである。
 いったいどうしてこんなことになったんだろう。

 理由はかなりはっきりしている。
 去年の10月くらいだっただろうか。恐ろしく強い自称女性ネット将棋指しに出会ってから。

 なにしろネットなので、本当に女性だかどうかさえ怪しいものである。パソコン通信時代にさんざん出没した『女装ネットワーカー』=ネカマである可能性は今も排除できない。

 でも、ネットの中のキャラクターとして、若い女の将棋指しがいて、しかも強烈に強い。
 どうせ虚構の世界なのだから、そういうことがあってもいいぢゃないか。

 昨年の秋のある日々。僕はネット将棋で16連勝していた。あまり人が使わない特異な戦法を駆使して、次々に立ち向かってくる相手を撃破しつづけていたのである。初級レベルルームにいたので、学生時代にちょっとは将棋を学んでいた経験があれば、そういうこともできる。

 でも、もともとが自力が知れているので、強い相手が出て来たら、いずれは連勝は止まる。問題は止り方だ。こんなに連勝したのだから、名もない相手に討ち取られたくない。どうせなら、かなり強い話題の相手と対戦して、討ち取られたいという妙な欲が出て来た。

 誰か適当な相手はいないかな。いきなり上級にいってまったく歯が立たない相手に一蹴されるのも悲しいので、この初級レベルで名がある勇者に体当たりして散りたい!

 そう思って相手を物色していたときのことである。すごい相手を見つけた。

 13連勝。強さの指標であるレーティングは、1640。勝敗は13勝0敗。つまり1度も負けていないのである。しかも1200から始まるレーティングを13試合で1600台に持ってゆくということは、かなり高いレベルの相手を撃破し続けないとこの数字にはならない。無敗ということは、まだどこまで強いのか、底が知れないということでもある。そして、なぜだかその人の対局ルームに、20人もの観戦者がいた点が気にいった。でも、初級ルームで20人もギャラリーを集めているのはいったいなぜ?

 対局を観戦したついでに、プロフィールをクリックしてみると、自称『女性。22歳。大学生。恋人は探していない。好きな言葉は、タイムイズマネー(^^)(^^)』であった。

 ネット将棋世界は、ほとんど完全な男社会なので、女装にしろ、女を名乗る将棋指しがいて、それが強い将棋を指す、ということが注目を浴びていたのだろう。どのくいらい強いのかが気になった。幸いなことに、彼女は対局している。観戦すれば分かるだろう。

 のぞいた勝負は、すでに終盤だった。

 一見して、彼女?彼女の側は、絶体絶命の瀬戸際だと見て取れた。次の一手を、どうやって指したらいいのか。彼女の側の立場でみると、その勝負はかなり絶望的に思えた。自分の王様の上部にも下部にも、敵の駒が迫っている。退路はない。次の手で、受けがなくなる。投了するしかないんぢゃないか。

 それとも王手を連続しての決死的な反撃があるのか。。。見たところ、それはない。そのくらいは僕にも分かる。13連勝もこれでストップ。僕の連勝を捧げる相手ではなかったのか。


 でも、彼女?が指した次の一手は、すごい手だった。派手ではない。すごく地味な手。
 『ええーこんなん。だめじゃん。間に合わないよ』
 僕だけでなく、きっと彼女にとどめを刺そうとする相手もそう思ったに違いない。その証拠に、彼女?がたった今、指した手を手抜きして、攻めたのだ。これで決まりかな。

 


 ところがそうではなかった。彼女の次手は、平凡なネット将棋指しの僕には予想もつかない決定的な逆転の手だった。将棋でいう即詰み。王手を連続して相手の息の根をとめてしまう手だったのだ。さきほど動かした地味な手は、逆転の伏線だということだ。地味な手はとどめの手だったのだ。

 『こんな逆転のとどめがあったなんて!』その手を指した彼女?の将棋を目撃した僕は、しばらくうっとりとしびれた。強い。かなり。僕よりもずっと!

 討ち取られた相手は、『ありがとうございました』という言葉を、タイプすることさえ忘れて呆然としていたのだろう。それは分かる。ずっと勝っていたと思っていたはずだから。僕がそう思っていたように。

 負けた相手は、無言で席を立った。そうして僕は、深呼吸して彼が席を立つのと入れ替わりに先手の席に着いた。ギャラリーは20人以上いる。

 『僕の16連勝を捧げます!』とチャット画面に入力すると、『(^^;)お手柔らかに』と返事が来た。対局開始ボタンをクリックする。

 ギャラリーはさらに増えた。僕は16連勝。彼女は14連勝。僕はレーティング1670。彼女はレーティング1648。僕は350勝99敗。彼女は14勝0敗。初級ルームで注目を浴びるには、まずまずのカードだ。

 ギャラリーは20人を越えた。女性を名乗る目の前のネット棋士は、まだ発展途上にある。このままずっと彼女が勝ち続けて上級1800クラスの勝負師になったとしたら、その時は平凡な僕を、もう相手にしないだろう。

 相手の成長過程で巡り会うことができて幸福だった。僕の将棋も調子もいい。なにしろ16連勝中だ。持てる全力でぶつかることにした。

 一番得意な戦法は使えなかったものの、それからの1時間。僕は『この勝負の緊張が少しでもながく続くように』全力で攻めた。一瞬でもいい。彼女が震えてくれたら。あわよくば叩き斬って、名を上げてやろうと。中盤で猛攻を仕掛けた。彼女?のさっきの対局を見ているので、中盤以降の攻防の駆け引きになると相手が格段に技量が上だということを知っている。混戦になると手が読めない僕はきっと惨敗する。

 攻めるか。攻めが挫折するか。択一の勝負だけが、僕の唯一の勝機だ。彼女は4度だけ長く考えた。一瞬でも受けを間違えてくれたら、甘い受けをしてくれたら、僕は彼女の防衛陣を粉砕する気合いで強烈な指し手を続け、そのたびに受けてくる。

 受けられるたびに、背中がぞくぞくした。強い。勝負は僕が、中盤の勝負どころで失敗してあっけなく終わった。1時間弱のひととき、勝てなかったけど、僕は強烈に攻めを叩き付け、彼女は強烈に受けを放つ、その応対の陶酔した時間が心地よかった。将棋を知っててよかった。

 で、その彼女はどこまで強いのか。まったく謎なのである。その後の僕は、勝ったり負けたりで、いつまでも1600レベルのままだけど、彼女は、上級でも快進撃を続け、今やレーティングは2500。

 彼女が上級の名のある相手とひとたび戦うと、100人いるルームのネット将棋指しのうち60人以上が、自分の勝負をやめて観戦する。それもアマチュアだけでなくプロもまじってるんぢゃないかと噂される上級ルームでだ。それほどのネットスターに成長した。

 最近はどうしているかというと、初級2ルームに常駐し、仲間?それとも弟子?を30人近くも作り、将棋教室みたいなことを毎晩している。自分の勝負には相手がいなくなったので、そうやって暇をつぶしているのかどうなのか、それはわからないけれど。彼女の生の勝負を見る機会は極端に減ったが、スターであることは依然として拡大し続けているわけだ。

 ネットゲームの世界に現実と異なる世界が開けるとしたら、それは、彼女?のようなスターが突如としてうまれることだろうか。彼女のように勝負するだけでルームにいる6割もの人々が観戦するなんてすごすぎる。視聴率60%ってことだろ。

 テレビだとしたら、すごい視聴率ぢゃないか。彼女がほんとうに、女性なのか、実在する人間であるのか、まったく何の保証もない。しかし、ネット上の将棋指しは、『将棋を指す』その行為がある限り、実在しなくても存在するのだ。

 極端な話が、将棋の勝負はスーパーコンピュータが担当し、チャットは、本物の女子大生が担当してもいっこうにかまわないのである。ネットの中には、強い将棋を指し、女子大生っぽい印象で絵文字つきメッセージをタイプする、『人格』が、確かに存在している。それでいい。実在は問題ではないのだ。

 そうして、僕はといえば、ネット上に確かに存在する、この『女性ネット将棋指し』のことがかなり好きである。多数のファンに囲まれているので、このごろは気軽にチャットもできなくなったが、彼女に恥ずかしくない将棋を学ぼうと仕事以外のほとんどすべてを将棋の研鑽に投入する日々なのである。

 単なる趣味なのに、こんなに人生捧げてしまっていいのであろうか。

   
 
 会ってみたい。そう思うこともある。ネットの中でだけ会うことができる、女性ネットワーカーの将棋指しの素性が『強い単なるおっさんの女装』だった場合。将棋ソフトメーカーの技術者が創造した『ネット常駐型人格将棋指し女性版試作1型』だった場合。豊胸手術した中原誠永世名人の愛人でもあった元プロ棋士『ハヤシバナオコ』だったとしたら。

 俺は失望するだろうか。きっとしないだろう。

 
 


 僕は彼女に会ったら、将棋を指す。人格が存在しない機械だとしてもだ。僕との間につむぎだされた勝負の時間そのものは、確かに存在したのだから。誰であれ、僕の前で将棋をしてくれたらいいのだ。

 僕は、その相手が、誰であっても。。。。おじさん、機械、ハヤシバナオコのいずれであったとしても、彼女の指し手を再現してくれる、ネット棋士とのひとときに、至福の時を感じて、きっと涙を流すだろう。

 『ああ、この勝負が永遠に続くように!彼女との陶酔の時間を、将棋という時間と空間をともにできる喜びを!僕だけにいつまでもいつまでも、ずっと指し続けてくれるように僕は攻め、彼女は守り』永遠の時間を生きたいと思うのである。

 彼女の名は、cat_mai01。ヤフーのゲームコンテンツの将棋コーナーで生きる、西暦2002年初頭の最強最大のネットスターである。

【yahooのゲームコーナー】
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【cat_maiさんのプロフィール】
http://profiles.yahoo.co.jp/cat_mai02

   

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