第23回
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■ ヒンズー分隊、前へえ!!

 ふうううじこちゃああん、俺るぱあんさんじゅうだああああい!!
 (スルーしてお願い。本人は錯乱しているだけですから) 

 足腰を鍛えてみようと、思う。

 俺も今年で三十路を迎える。頼みもしないのに、だ。
 三十・・・・俺の心にマリッジ・ブルーめいたものが過ぎる。この逃れられぬ目の前の現実はどうだ? 自分がある時、違うものになってしまうかのような、恐怖感。気が、急きたてられる。
 その話題になるや、心に霜が降りる。振り払えない、苦悩。
 走っても走っても、その過酷な現実は追いかけてくるのだ。
 怪我もせず、大病もせず、すこぶる健康体のベストコンディションで、男盛り三十代の最初の階段を一歩踏み出す。
 さぞ晴れがましい気分だろうって? 冗談じゃあない。
 
 気分はもう、死刑執行前夜である。
 
 自分に問いかける。三十になるにあたって、俺はこれでいいのか? このままで・・・・いいや、まだまだあまりにも未熟だ。
 一体全体、どうなんだろう? 三十男というレッテルにふさわしい自分なのだろうか? わからない・・・・どうなんだ? 太陽の下で胸を張れるほど人間的に成長しているか?
 真摯に自問自答してみる・・・・空転する考え。シリアスな俺。結構いいかも。
 だが、周りでは。
 三十路、三十路! おーい三十路、あ三十路だ・・・・底意地の悪い笑いを口元に貼り付けやがって俺を蔑みだした友人知人関係。交友関係!! 仕事場!! 親!! 兄弟!! どこもどこも誰も彼も!! のべつまくなしに、俺のレッツ三十代に快哉を叫んでいる。
 最低、意味わかんねえそれ。
 お前ら!! なんかそれ気の利いたジョークだとでも思っとるんだろうがそいつは大変な間違いだ!!
 人種差別反対!!
 
 俺は・・・・俺はオジン呼ばわりされるのは、嫌だああああ!!
 
 あ、いや、若者っぽく叫ぼう。
 嫌さあああああ!! 

 しかも俺ときたら容貌が年齢に正比例してゆくもんだからなおの事腹が立つ。眩暈がするほど腹が立つ。

 とにもかくにも、まだ見えぬ未来を遮る、いずれ開かれるべき時のドアは、もうすぐそこ。
 それが直前であればあるほど、不安は胸に重くのしかかる。一日、また一日と迫るその瞬間。あたし、これでいいの? この人とうまくやっていけるのかしら? このまま彼と結婚して・・・・。
 一人物思いに沈む。そこへ、柔らかい淡雪のような微笑みを湛えた彼(ぺ・ヨンジュン)が・・・・。 

 違う。 
 
 そういえばだ。
 ふと我に帰る。考えてみれば、俺はまだいい。
 そう。そういえば・・・・なのだ。考えてみれば、確かに冬景色の俺の心はまだまだ、不幸に縁遠い。
 
 俺は男だ。男は三十からと皆は言う。
 だが、女性はどうなのか? 世の多くの女性の大願悲願・・・・結婚願望。そこにある巨岩のような大難題が、心掻き乱す。
 さあ人生本線、三十路駅到着。(みそじぃいいい、みそじぃいいい)
 受け入れ難いが、事実は事実。そうなると? ややもすれば周囲の同性異性の心無い発言はもとより、世間体すらも気になる。無情な世間様の目からも「売れ残り」という嘲弄するかのような眼差しに晒される。最近はそういう風潮は薄らいできたとはいうが、皆無ではない。
 古い価値観だって? 時代錯誤だって? 現今の多様な価値観の中ではそんな事てんで問題にならないだって? 俺もそう思うがそいつは厳然たる事実なのだ。
 自分の後ろにあるあの白線は、彼女の心を冷やす無慈悲なボーダーライン。
 ・・・・なので、世の女性方は焦るのだ。
 
 くうううう!! なんという悲劇!! なんという超現実!! ・・・・突き上げる悲しみに目頭が熱くなる。 
 
 これ以上やると、沢山のアフター三十女性を敵に回してしまう事になるので、ここまで。いやあ、女性は三十からっすよ。ええ、実際。いやあ、お美しい・・・・誰があなたをバ・・・・(ヒント、禁句の三文字)いや、何も。

 三十から、女盛りの花が咲く。十代、二十代は人生下積み時代で幼虫毛虫とサナギの季節。アゲハの如く羽根を広げてブレイクするのが三十代!!
 
 いや、そんな誤解だっ・・・・あーたそれは被害もうそ・・・・やめろ!! 金はやるっぬぐほおおおお!!(殴られる)

 わ、話題を変えよう。
 
 さて。
 個人差はあるだろうが、三十代に入ってからは二十代の頃よりも基礎代謝が落ちる。そしてこれからグングン下降線。エバーグリーンなんてそんじょそこいらに転がっちゃいない。人は肉体的精神的に刻一刻と老いて行く。
 避けられない自然の摂理。
 油断しているとホラ! お腹の周りやお尻に余計なお肉が・・・・若い頃はあれくらい食べても平気だったのに、なんで? この二の腕のブルブルは何? あら、この太過ぎる太股っていうか何このハム!!
 鏡に映る己の姿に驚愕、狼狽、意気消沈。
 あなたは鏡の向こう側の得体の知れない四次元ブタ生物を指差し、Sっぽくこうのたまうのだ!!

 この・・・・このっ、雌豚があああ!! 
 
 ああ困った困った、遅まきながら対処しようとも、問題山積み!!

 あ、すんません、喧嘩売ってないっす。メンチきらないで。
 
 考えてごらんなさい。そういう趣味の男性でもない限り、これは結婚への大きな障害。何のかんのいって、やっぱファーストインプレッション。見た目は決め手。所詮この世は見た目っすから。

 見た目っすから(エコー)。
 
 幻想を求めちゃ駄目っすよホント男としちゃあやっぱ見た目っしょお。地道に愛を暖めていくような、千里の道を万難を排して歩むような西遊記的恋愛結婚でもない限り。
 運命の出会い? ハッ!
 コンパ、見合いでも美しさは大きなポイント。家柄、性格、大事なのかも知れない。手練手管もありましょう。でも重要なの見た目。
 マジで。てーか、超リアルに。
 ああ、今のご免マジ冗談・・・・ええと、旦那さんサイドとしちゃ、まあ料理の上手さも、もっと重要なポイントですが・・・・愛にだって乗り越えられないご飯だってあるんです!!(力説)
 人知を超えたロースキルクッキング花嫁が繰り出す激ヤバ過ぎバッドフードの嵐・・・・それを毎日喰わされる旦那の目には、もう死兆星が見えている。
 
 それはさておき閑話休題、崩れた体型をまた眩いばかりのナイスバディに甦らせるのは相当の努力と根気が不屈の闘志が必要。ゼロからではなくマイナスからのスタートなので精神的にも参る。あなたの鋼鉄の意志を挫かんとする誘惑も多い。この世には有形無形の悪魔ってのが実在するわけです。

 その道程、まさに宇宙戦艦ヤマト・イスカンダル便。業火渦巻く生きながらの煉獄。万難辛苦の呻吟喰い倒れフルコース。
 対策を講じようとも、思うままにはいかないのが現実というもの。
 
 こうなる前に! いいですか!?(誰お前) こ、う、な、る、前に手段を講じておくのが真の知者というもの。
 
 俺は提言したい。
 ここはひとつ、スパルタニック肉体オーバーホール計画発動を提言する。 
 
 ヒンズースクワット励行、である。

 果て無き肉体上下動、下半身に乳酸出まくりの終りなきピストン運動でバージンロードを自分の前に引き寄せろ!!

 俺としても、最近どうもよる年波を感じてきている。
 昨今、ちょいと足回りに不安を抱えている次第だ。

 チューンせねば。
 
 俺は足回りにはちょいとした自信がある。が、更なる強健な下半身をゲットせねば。
 
 しかしさりとて、こればっかしは街のパーツ屋で売ってはいない。
 死体置き場や『人体の不思議展』で手頃なブツをガメてくるわけにもいかない。
 日本の医学力はあああ日本一ぃいいなので、世界一でもないしそういうフランケンシュタインみたいなつぎはぎ生体改造に打って出るわけにもいかない。ドイツだったらいいのかも知れない。
 下半身をマシンに変え、サイッボーグ戦士ぃ(009の歌)、になってもいいかとも思うが、アノ部分ですらも機械化されるのは、もしくはオミットされるのは、人によっては人生の九十パーセントを失ったようなものなので、そんなの悲しいので、やめとく。

 鍛える他、なし。

 ごくごくまっとうな結論に辿り着いてしまうのが、面白くないというがなんともはやである。
 しかもこいつは己のためとはいえ、とにもかくにも根気がいる上に実におっくうなものである。現今の社会生活に揉まれ、夜遅く疲れ果てて家に帰り、その日の精神的ストレスと肉体的疲労を風呂とビールで洗い落とすという日々。
 残業、付き合いもある。時間もそれだけ削られる。自分の時間の全てを自分のものにするのは不可能だ。
 メンタル面もある。上司や同僚と衝突してムシャクシャ、ついつい自棄っぱちになっちまって、何もかもクソ喰らえ、という気分の日もある。歯車が噛み合わずに失敗だらけで自分を責め、落ち込んでしまう日もある。
 そういう毎日のワンシーンに積極的にかつ自発的に自己鍛錬の時間を組み込むというのはあまりに大儀。

 物置の奥や部屋の開いたスペースの居心地悪そうに転がる、通販で購入した鍛錬器具。足元に転がる鉄アレイ。

 しかし、自分に対する言い訳はいくらでも考えられるものだ。
 現状を打破したいのなら、やるしかないのである。
 と、始めたての段階では心強くしていられるのだが・・・・。

 モチベーションをキープ出来れば問題なしだが、そうもいくまい。
 まあ、何も毎日やるってわけじゃない。
 継続する自信がないのなら週に三日程、それぐらいでいい。それだけでも意外な程効果があるという。まあ、何もアスリートになれっていうわけじゃないんだから、程ほどに頑張るのがいいのかも知れない。
 精神的強さの問題だが、嫌気がさすと、本当に超面倒になってくるのである。
 一日のスケジュールに組み込めるような状態になってくれば、つまりは生活の一部となってくれば、言う事はないのだが。
 逆にそのトレーニングを消化しないと、何か自分が悪い事をしているかのような強迫観念にかられたら、もう完璧である。

 強健な下半身作りに効果的なのはヒンズースクワットであるという。姿勢を正し、頭の後ろで手を組んで、その状態でゆっくりもったいぶるように膝を曲げて腰を落す。
 急いては事を仕損じる・・・・瞬発力は利用してはならない。しっかり負荷をかけ、やおら膝を伸ばす。
 動き自体に慣れてきたら、回数も増やしたくなる。

 これを結構繰り返すと、体も暖まって気分もいいのである。
 暖房要らずの男に大変身である。 
 
 もっとも、体が冷えるまでの間だが。

 あ、そういえば。
 
 『ヒンズースクワット』が正しいのだろうか、『ヒンズースクワッド』が正しいのだろうか、それが問題である。
 そうじゃないか?

 え、どっちでもいいんじゃないかって?
 確かに。
 この上下動運動をやるにあたって、名前などどうでもいいのかも知れない。
 それは、認めようじゃないか。
 だがしかしと反論したい。それはそうだが・・・・それで一刀両断されてしまっては超つまんないではないか。
 
 この際、己の無知蒙昧ぶりを恥じ、この『ヒンズースクワッどっちなの』の、『ト』か『ド』が果たして正しいのか。さらにはこの名前の起源というのを自分なりに探ってみようじゃないか。

 世間ではどちらの呼ばれ方もしている。どっちが正しいのと素で聞き返されたりもした。勘違いもあるだろうが、どっちが正しいのか。
 試みに手っ取り早く、両方の呼び方で検索してみたら、どちらともあった。

 どちらでも可、そんな事はない。
 謎は深まるばかり。

 それに、もう一つ。頭の『ヒンズー』というのも、今の今まで別段気にしていなかったが、いざ気になりだすとその意味を知りたくなるのである。
 それはそうと、今の今まで『ヒンズースクワット(ド)』というひとつながりの響きで聞き親しんできたから、そういうものだという固定観念が出来上がり、意味について深く考えてみようとは思わなかった。この機会を得て、前後をこういう感じで改めて分離し、考察するのは面白いものだ。
 自分がなんと物を知らないかというのを再認識させられてはっとする。
 
 『ヒンズー』は、つまりは直球で『ヒンズー教』だろう。
 実際、検索でヒットしたサイトでは、これを起源とするという、つまりは『ヒンズー教』、『インド』を発祥するものという話もあった。
 インド旅行に行った人の回想録や旅行記では、街や寺院や公園のそこかしこで『ヒンズースクワット(ド)』に励んでいる人々を目にしたという。
 『ヒンズースクワット(ド)』・・・・インド発祥の、今や世界的上下動運動、これは間違いないものとしていいようだ。
 これは、そうだろう。
 さあ問題は『スクワット』と『スクワッド』である。

 まずは『スクワッド』・・・・こちらは、響き的に映画やゲームで耳にした気がするので先にやっつけよう。辞書サイトで検索してみると、『(軍の、警察の)分隊』とある。

 『ヒンズー分隊』・・・・?
 『ヒンズー分隊』とはなんぞや?
 こうなると、なにやら男臭さがプンプン臭いたってくる。そんな気配だ。

 軍隊式の鍛錬や運動が民間に普及したという事なのか?
 鬼のインド国軍伝統の鍛錬法・・・・その名も『ヒンズー分隊』。
 日本海軍生まれというあのカレーライスも、今や国民食として日本列島津々浦々まで浸透している。あの肉じゃがも、実のところ軍隊(海軍)生まれ。
 軍隊というのは文化が波及する上で大きな役割をするという。
 軍隊というものは国中の各地域から人員を引っ張ってゆく。または集まってくる。様々な地域にいる人間がひとくくりの組織として同じ文化や価値観、規則規範を共有するのだ。
 それが、戦争が終わって兵隊達が復員した際に、各々の故郷へ軍隊文化、もしくは画一化された文化や価値観が伝播してゆくのである。
 
 インド国軍で代表的なシゴキトレーニング『ヒンズースクワッド』・・・・が兵隊を通してインド全域に広がったというのも、あながち間違いではないような気もする。

 いいや・・・・まだ『スクワット』が残っている。
 現時点で結論を出すのは、早計だ。
 だが、そうであってもいい、自分で真実を暴き出したという思いもある。

 つまりは、こういう事なのか?

 (以下の文章は稚拙な個人的インド偏見を拠り所にして、あくまでイメージとして書かれてあるので適当感全開、突っ込み所満載です。インドの人ゴメンナサイ)
 
 悠久の時を超えて流れる雄大なガンジス河が国土に横たわる、大いなるインド。

 そして、その辺境。サンスクリット文字が躍る連隊旗が微風にはためく。
 慈悲深き神仏さえも見捨てた荒涼たる荒野の果て『キャンプ・ガンジー』では、今日も精強なるインド国陸軍が誇る特殊部隊『ブラフマー』の隊員達が、過酷な教練で血の涙と汗を流していた。
 馬さえも顎を出し許しを乞う炎天下での長距離行軍。駆け足で焼け付いた大地を走破する。生きながら火葬されていくような苦痛。しかし例えこのまま焼き尽くされて灰となってしまっても、一人前のヒンズー男となるまでは彼らは何度でも輪廻によってこの地に舞い戻ってくるだろう。
 玄奘三蔵もかくやという苦行。休む事なく走り続けて半日、鉄のように鍛え上げられたこの男達だから出来る芸当である。
 
 「よおーし、ぶんたああーい!! 止まれ!!」
 
 鬼とさえ呼ばれた軍曹の号令で一団が止まる。
 「かけああああし!! やめ!! 右向けぇええええ・・・・みぎぃ!!」
 職業軍人らしいきびきびとした怒声が空に木霊する。
  「キオーォ・・・・ツケ!!」
 静寂。仏像のように身じろぎひとつしない隊員達の前を悠然とした歩調で歩く、連隊きっての鬼軍曹ムトゥー。顔つきは怒れるシバァの化身。鋭い眼光が雄弁に語っているように、無数の顔を持つというクリシュナのように万事において注意深く、抜かりがない。
 この男にはどんな命乞いも無意味であるはずだ。
 「どいつもこいつも仏前に供える砂糖細工みたいな甘い面をしおって・・・・陸軍最強との令名高き貴様らがそんな甘ちゃんでは、この国の国防も地に堕ちたものだ!! 貴様ら、国民や政治家やヒンズーの神に恥じんのか!!」
 一見理不尽な罵声の嵐。しかし彼としては訓練中は手綱を緩めるわけにはいかない。その結果を考えれば当然だ。甘い教練は部下を地獄に案内しているようなものだからだ。
 叩きつけられる激しい言葉の一つ一つが、兵隊に課する過酷なこの訓練が、ビシュヌの愛なのである。 
 整列する分隊のある一人を見やり、ムトゥーは口を開いた。
 「タマニー!!」
 「ナマステ・サー!!」
 名を呼ばれ、一団の中で一際精悍な面立ちの青年が鋭く応える。
 「特に貴様がその最たるものだ、このお嬢様野郎!! 鳥肌立つほどお上品に走りやがって。ムガル帝国はもう終わったんだ、貴様宮殿の召使いにでもなったつもりか!!」
 軍曹の見幕にも、期待の新人タマニーは動じない。前を見据えて短く叫ぶ。
 「ノー、サー!!」
 連隊長肝入りでこの分隊に送られてきた元空挺屋タマニー。泣く子も黙る『シャルベーシャ』第二空挺師団出身。生きのいい若造が入ってきて内心嬉しいムトゥーだが、かといって手心を加えるわけにはいかない。
 この男、さらに磨き上げて眩い輝きを放つインド産ダイヤモンドとしなくては。鬼軍曹は自分の役回りをよくわかっていた。そのための叱咤である。
 「新入り・・・・貴様はどこにいる? どこに所属している? 周りの腑抜け野郎どもによくわかるように教えてやれ!!」
 「栄えあるインド国軍『ブラフマー』連隊・・・・第七中隊『インドラ』の第四小隊第一分隊であります!!」
 タマニーは完璧に答えた。だが、鬼軍曹ムトゥーはまだまだ不満そうだ。
 「ほう・・・・!? だが貴様らにはその自覚がないようじゃあないか。気合が入っておらんのだ!! そんな事ではいざ実戦という時には、ここに面を並べているどいつもこいつも全員漏れなく枕を並べてガンジス河送りだ!!」
 兵隊達は表面上、何も感じていないように見える。だが、彼らは確かに軍曹の言葉を聞いていた。
 「そうなってからでは貴様ら、国の役には立てんのだぞ!! 貴様らデリーを落としたいか? 誉れ高きIT先進国のこのインドをどこぞの国へと献上したいか!? タージマハールは誰が守る? 戦場において無抵抗ハンガーストライキ主義では、決して敵には勝てんのだ!! 貴様らがインド・ミュージカル映画気分で呑気に右手でカレーを喰っている間、俺達の敵は虎視眈々と寝首をかこうとしているんだ! 奴らは待っちゃくれんのだぞ!!」
 一度言葉を切り、全員を見回す。
 「いいかお前らの事だ!! わかっとるのか!!」
 「サー!! イエッサー!!」
 空を圧して響き渡る隊員達の声にはひねくれたものはどこにもない。敬虔なヒンズー教徒らしい彼らの真っ直ぐさと清らかさ。ムトゥーは骨のある連中だ、と鋼鉄の仮面の下でほくそえみ、だが決して容赦する事のないいかつい表情で命じた。
 「砂糖菓子どもが!! 俺がヒンズー魂を注入してやる!! 装備を外せぇ!! 手は頭の後ろぉおお!! インド陸軍伝統の『ヒンズー分隊(スクワッド)』無限回!! はじめええええ!!」
 灼熱の炎天下で躍動する肉体の永久機関。
 ムトゥーはいつ止めてくれるのか、そんな事は問題ではない。男達はいつかストップの号令がかかるまで耐え抜いてやろうという意気込みで体を酷使し続ける。
 彼らをここまで駆り立てるのは何(ナン)だろう? 己に打ち勝つための克己心か? 不屈のヒンズー魂ゆえか? 栄光あるインド国軍、そのエリート部隊へ配属された誇りや自負心か? 部隊や祖国への忠誠か? 神仏への帰依か? 

 律動的に上下動する体。噴き出る汗。まるで業をそそぐかのように、男達はいたってポジティブに、自分達に苦行を課す。
 その姿を号令をかけつつ見守りながら、アスラの化身と呼ばれる鬼軍曹ムトゥーは誓いを新たにした。

 俺の全能力のあたうかぎり、俺の全てをお前達に叩き込んでやる・・・・。

 彼らの栄光と己への挑戦は、輪廻の輪のように、決して終わる事はない。

 という事なのか。
 という事であれば、なんと熱き話だ。個人的にシビれる。
 え? 絶対違うって? ありえねえって? いやそれマジ勘弁だって? 結構そういうのって激ヤバじゃない、だって?
 胸がすくほど全否定だな・・・・気に入った。貴様、いい軍人になれるぞ?
 
 だが、俺はそれしきの事では自分を曲げない。負けない。惑わされない。そう一人心に固く誓うミッドナイ(ト)。いかん、意固地になるあまり、思わずラップ調になってしまった。
 世界で親しまれているポピュラーなトレーニング法は、誇り高き男達の過酷な日常から産み落とされた・・・・しかも、インド産ときた。 
 我ながら、いい推理じゃあないか。悪くない。俺の中でもう最高にイケてる感じ。
 だが、ここで満足して旅を終えてはいけない。核心は掴んだに違いないが、まだそれが揺ぎ無い土台の上にあるわけではない。
 さてと、後は確証を掴む作業に入ろう。

 おっと、その前に『スクワット』の方を片付けなくては。
 グーの辞書で検索しよう。
 
 『スクワット』・・・・(しゃがむ、の意)上半身を伸ばしたまま行う膝の屈伸運動・・・・だって。
 
 あ。

 ふりだし同然。あれこれとサイトにお邪魔し、で、このようにして導き出された結論。
 『ヒンズースクワット』・・・・恐らくはヒンズー教の修行僧がやる鍛錬法が起源と思われる国民的屈伸運動。もしくは、ヒンズー風の(または、に酷似した)スクワット運動、という事なのだろう。
 あの屈伸運動。ヒンズーの宗教的に意味が深いポーズ、または動作なのかも知れない。
 
 要するに、インドの山奥でっ、ていう感じなわけだ。

 でも本当にそうなのか? 疑問は残る。・・・・結局、ビシッとこれこれと定義してくれるものを見つけられなかったのが、残念だ。結局、決定打が見つからなかった。
 真相を教えてくれ、インドの人!! 

 まあ、それでも結構じゃないか。俺はインド方面を向いて、手を合わせ、頭を垂れよう。インドのストイックで徳の高い修行者達や、一般ピープルは、こうしている今も『ヒンズースクワット』に励んでいるに違いないからだ。
 そして、多分インドの軍人さん達も。
 皆さん、『ヒンズースクワット』が正解です。
 『スクワッド』とか自信満々で表記している皆さぁん? 『ヒンズースクワッド』ではありません!!

 それにしても、ちいいい!!
 ああ勘違い思い込み三十路に入ってからもこの体たらくはなんだあああ!!

 『ヒンズースクワッド』五万回!!

 あ。また『ド』。


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