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第21回 | |
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人体の、衝撃 NOTICE!! この文章には一部ショッキングな内容が含まれており、ある思想、良識、性向、趣味嗜好、精神状態の方によっては不快感、もしくは心理的悪影響を引き起こす場合があります(その逆もね)。また、もしそのような事態となりましても当方は一切の責任を負いません。 以上の事をご理解ご了承の上、あくまで自己責任の原則でお読みになってください(18禁サイトの前フリかよ!)。 ![]() 「プラストミック技術」・・・・「プラスティネーション」と呼んだ方が世間一般では知名度は高いだろう・・・・この優れた生体保存技術で作り出された人体解剖標本の展示会だ。 無論、人体標本を一般に公開しているという催し物は、これが初めてではない。だが、知名度の高さで言えばやはりこの「人体の不思議展」だろう。 その内容たるや実に興味深く、そしてあまりにも衝撃的だ・・・・これまでの価値観に大きな一撃を加えられるほどの。 それでいて、見る者を決して虚心ではいさせない鮮烈な印象を、胸に刻みつけさせるのだ。 その噂を耳にした方、実際会場に足を運んだ方の受け止めようはそれこそ千差万別だろうし、好意的な意見をものす方もいれば、嫌悪感を表す向きも少なくない。 気持ち悪い、思ったより怖い印象はない、いや怖い、倫理観を疑う、実に勉強になり啓蒙的ですらある、人生最大の驚きだ、人間(の遺体)を見世物にするのか、いろいろな意見があるが貴重な体験だ。 まあ、いろいろだ。 見れば、何かが変わるし、変わらないかもしれない。人間とは刻一刻と変化していくものだが、この「人体の不思議展」もその一つの要因として作用してくれるかもしれない。俺はあなたではないから、どうとも言えない。 ![]() ゴールデンウィークで、しかも日曜日という事もあって大変な人出。福岡市博物館の中に足を踏み入れてビックリ、他の催し物は閑古鳥が鳴いていたのにも関わらず、この「人体の不思議・特別展」だけに限ってはかなりの賑わいです。 あのオバサン、笑ってます。そう、笑顔がそこかしこで咲く入場口。 この底抜けの明るさは何なんでしょうか。皆さん「怖いもの見たさ」の興味があるんでしょうか(そういう動機でも実に結構)、と下種の勘ぐりをしてしまいます。 私のように思い立って行ったあなたは、当日券をお求めになってください。入場券売り場は、やはり長蛇の列。大盛況のようで結構な事です。 ご来場の年齢層も幅広い。下はガキンチョから、上はロマンスグレーのお年寄り。テレビや街中に張り出された広告などの強烈なインパクトのせいもあってか、皆さんかなり関心があるご様子です。 さあ! いよいよ驚異の世界へと道連れ、いやご案内しましょう。 嫌がるな!! 来るんだよ!!! さて、俺がここへやってきた直接のきっかけは、電車の吊広告にふと目がいったからだ。そう、見てしまったのだ。今になってあの悪夢に悩まされる事を考えれば、見るんじゃなかったとほんのちょっと後悔している。 「人体の不思議・特別展」 他の英会話教室とかデパートとかの当たり障りのないいたって平和な広告とは違う、何か一種禍々しさを感じるような異様な雰囲気。男性のものと思われるミイラのような色のくすんだ人体が、どこか遠くを見やりながら、全身の筋肉を広げて立っている。その横に大きく「人体の不思議・特別展」という文字が踊る。俺は前の会場の事に知識などはないから、どこのあたりが「特別」なのか、よくわからないが。 ![]() 人工心臓などといった医療器具埋め込み全身標本、縦ぶった切り半身標本、アーティスティックなお坐り骸骨、手足などの各種パーツ、着色されたと思われる血管標本、神経、脳、頭部、性器、消化器・・・・よくもまあ、である。 特に全身標本はアート心を発揮して作ったと誤解されてもおかしくない程の凄まじさ、アンド時には茶目っ気さだ。誤解を恐れずに言うが、猟奇的ですらある。ここまで手を加えた人間のセンスを疑ってしまう(人体を研究対象として純粋な目で見ているんだろうが)。 間近で見るプラストミック全身標本は、確かに生々しい。しかし・・・・矛盾する事を書くが、どこかリアリティがないのだ。もちろんリアルもリアル、これ以上もないほどのリアルだ。 樹脂で固められたせいだろうか、俺にはプラスチック細工にも見え、極めてよく出来た人体模型のように見える。 全身標本には個人を識別できる部分が希薄だったせいだろうか? 確かに頭髪などはなく、顔面も表皮があるものもあるが故人を偲ぶほどのものは感じられない。 正直想像していたよりも気味悪くはない。 血液や体液が存在しないせいもあるだろう。干物のような表面もそうだ。多少の柔らかさを持っているが概ね硬く乾いているので、これが人体模型っぽい印象を与えているのかも知れない。 もっとも、これがドロドロでグチャグチャで水分たっぷりで柔らかく、おまけに血まみれの状態だったら冗談では済まされない。腐乱死体よろしく青黒く変色していても大変だろう。そんなものが目の前にいたら俺も含めて皆卒倒していた事だろう。 臭いもまるでない(少しゴム臭いらしいが)。まさに無味乾燥だ。 こう間近で見ていて、何も感じない。いや、感じる事は感じる。これがこうなのかと、この筋肉はこうなっているのかと。ただ、それだけだ。驚きを込めた興味だ。もっと言うなら知的好奇心が先に立ってしまったという事だろう。 俺の隣りの女性はさも不快そうに顔をしかめて見ている。俺はというと、人と人の間から首を巡らせて、喰い入るように見入っていた。俺は不安になった。 俺の感性はズレてるんじゃないだろうか。 杞憂だ。俺だけじゃない。他の人も足を止め、標本のあちこちに視線を走らせて、細部を目に焼き付けるようにして見ている。やはり人それぞれの受け止め方次第、というわけだろう。気持ち悪いと片付けてしまえば、それで終わりなのだ。肯定すれば、そういうふうに見えてくる。よく知ろうと思えば、熱心に見入ってしまうのだ。 彼らプラストミック標本は、人の心を写す鏡なのかも知れない。と、キザに思ってみる。 俺は、目の前の現実を貪るように見ていた。もちろん「うわあ」と思う場面もあったが、それでもじっくりと見て、会場を巡った。 俺は思い至った。 今の今まで耐え難いほどの嫌悪感も恐怖感も感じなかったのは、プラストミック人体標本が持つ、あの有無を言わせぬ迫力で圧倒されていたせいではないかと。 多分だ。 無論さっきも書いたが、人体のありとあらゆる部分が、あらゆるシチュエーションで展示されているので知的好奇心が刺激されたというのもあろう。 輪切りにされた頭部(堅く閉じられた目を見ればまつ毛が生えていた)。見れば、うどんかそうめんのような太さの神経。病魔に犯された状態の臓器。 それらは物凄い物量で次から次へと畳み掛けてくるのだ。「さあ、見ろ! 見ろ!! 見ろコノ!!!」である。 「もう帰る? もういい?」 眼鏡パパにだっこされた小さな女のコが、怖そうにしがみついてたのが印象的だった。 これが原因で間違った方向に育たなければいいが。 ![]() ここには、触れるプラストミック全身人体標本がある。 題して、「皮切と胸腹部臓器」だ。ネーミングからでも、どういう状態の格好か想像出来るだろう。 触る? 触らない? 触る? 触らない? 触る? 触らない? 見た目もそうだが、手触りも、やはりだ。 プラストミック化された筋肉組織を見た人がよく洩らす感想ナンバーワンがある。この会場でもあちこちで何度も聞いた。それはこうだ。 さあ、「人体の不思議・特別展」もいよいよフィナーレ。 ![]() いろいろと考えさせられた、有意義なゴールデンウィークの過ごし方だった。楽しい観光もいいが、こういうアカデミックな気分に浸るというのもたまにはいいもんだ。 さすがに食事という気分でもなかったが、せっかくだからメシは喰っておこうという連れに同意した。 とりあえず福岡市博物館を出てすぐ近くの某テレビ局の建物へと入る。思い出したが、「人体の不思議・特別展」にはここの局も協賛していたのではなかったか。 何と徹頭徹尾な行動だ。我ながら惚れ惚れする。 ![]() やはりあの体験が衝撃的だっったのか、度々悪夢に悩まされる破目になったのだ。 筋肉と内臓を露出したプラストミック全身標本が、遠い目をしながら陸上部走りで追っかけてくるのを想像してみるがいい。 俺はしばらくの間夢の中で、カール・ルイス走りのプラストミック標本と百道の街でチェイスを演じる事になる。 |
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