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第9回 | |
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| ■ 冬と、パワードスーツ 寒くなってきやがったものである。 いつのまにやら、である。 11月ともなれば昼夜ともに気温は一気に下がり、世間はますます「冬」の様相を呈しつつある。(なんかここ最近、季節にちなんだ出だしが多いような気もせんではないが、お許し願いたい。だって本当に寒いんだもん) 寒気を凌ぐために完全武装した道行く人は背を丸め、北風に悲壮な抵抗をする。コンビニのレジの一角を、おでんや肉まんが我が者顔で占位するようになり、それがまた飛ぶように売れる。鍋が恋しくなる。西田なにがしがここぞとばかりに味ポンのCMに出まくる。クリスマス商戦が始まる。 とまあ、そんな時期になってきたわけだ。 ![]() 危険だ。朝の立ち上がりにおいて、これは由々しき事だ。 窓辺からカーテン越しに差し込む朝日の心地よい光量に刺激され、「びんよよよーん」とバネ仕掛けみたいに起きる事が困難になってきた。 目覚ましが鳴るや、うすらぼんやりとした意識の中でそいつを切ってしまう。そして「あと5分」というお決まりの台詞をこれまた無意識で吐きながら、二度寝と洒落込むという事態になってしまうのだ。 ついには不覚にも寝坊し、慌てふためきながら身支度。ろくすっぱ顔も洗えず、バターさえ塗ってないトーストを囓りつつバス停に猛ダッシュというテレビドラマのようなベタベタな展開となるのだ。 こうなると人間何においても後手に回るものである。ついにはバスにも乗り遅れ、息を切らしてその後ろ姿を呆然として見送る破目に。なんて加速だ。なんてコーナリング性能だ、あのバス。きっと最速仕様になっているに違いない。そんならちもない考えが脳裏によぎる。 それにしても、なんてこった! あれを乗り過ごしちまったら、遅刻は確実じゃないか!! ・・・が、走って追い掛けるにはあまりにも遠すぎる。 まいったなあ、とさすがに渋い表情で頭を掻いていると、すぐ隣りに勢いよく駆け込んでくる人の気配がする。黒髪が舞う。鼻腔を心地よく刺激するリンスの香り。そいつはいかにもしまったというような調子で、言ったもんである。 「あっちゃー・・・やっちゃった!!」 やれやれ、御同輩か。まったく、似たような事をする奴もいるもんだ。 一日の始まりというのに早々疲労感を覚えて、それでいてこの状況にほんのちょっとの滑稽さを感じて、かぶりを降る。 そして、なんとはなしに隣りを見れば、驚くべき事になるにちがいないのだ。 最近隣りに越してきた「綺麗なお姉さん」風美人が、体を折り曲げ、息を切らしてそこにいるではないか。前から気にはなっていたが、こう間近で見ると、いいもんだ。 これはよくしたもんだ。奇遇も奇遇だ。いい展開だ。たしか名前は・・・とまあ、そういうごくありふれた光景が朝の住宅地のバス停で見られるに違いない。 そんなわけねえよ。 そんなわけねえ。 だが、言いたい事は伝わっただろうか。つまりはそういう事なのだ。冬の寒さという奴は、一分一秒を争う朝において、これから憂慮すべき「敵」なのだ。 ![]() うちの猫様も、ご多聞にもれずふかふかした布団が大好きだ。寒い夜ともなればいたくそれを所望なさる。布団に突入するや、実にこの世の天国とばかりに寝息をたてるのだ。 朝となればもう大変である。 床を上げようとしたら、布団から無体にも放り出された猫様は寝ぼけ眼で周囲を見回し、そうしたのち潤んだ瞳で俺を恨みがましく見るのである。 よせよ! そんな目で俺をみるんじゃない!! 心を鬼にして布団一式を格納する瞬間だ。この葛藤で5分のロス。だが、やらねばならん。猫は不満げだが、いいじゃないか。だってこいつにはコタツという第2の安住の地があるのだ。 電源がついていなくたって、コタツというものはそれなりに暖かいものなんだ。断熱効果、保温効果はそれなりにある。「生体暖房器具」とも言うべき猫が熱源として収まっていれば、けっこう暖かいものなんだ。 まあいい。 そいつはさておき、このままではいかん。 こいつはなんとかせねばならん。 この冬を快適に過ごすべく、しかるべき策というものを編み出しておかねばならん。そう、その寒さが本格的なものとなる、その前に。 おれは、考えていたんだ。 こうなると、あいつの出番である。 ![]() SFでよく出てくる、あれ。パワードスーツ。 コケた人もいるだろう。 だが、みなまで聞いて欲しい。 俺的に、冬の寒さはもうこのくらいしないと駄目なんだ。屋外を、暖かい屋内のように活動できるようにする、夢の防寒服。 ウィンドブレーカーやら、ダウンジャケットでは追いつかん。 こいつは素肌を外気にさらさないどころの騒ぎじゃない。外部と自分を完全に隔絶する、まさしく「完全武装」なのだ。 それは、いってみれば潜水服や、放射線防護服とロボットを掛け合わせたような奴だ。人間に、もう一枚分厚い皮を被せようっていうものだ。しかも、極め付きに硬くて、頑丈なだけでなく、筋肉としての機能も持っている奴だ。 考えてみたまえ。全身を隙間なく覆ってしまえば、どこにいようと大丈夫。エアコン付きならなおいい。 こいつを着てれば真冬における長時間の立哨だって、釣りだってそう苦にはならないはずだ。張り込みをしている刑事だって、もう自販機で買ってきたコーヒーで体を温める必要はないのだ。暖房付きだから。それどころか、防弾性に優れ、対放射能にも有効なら、これはもう刑事さんだけでなく、そこいらの軍隊さんでもよだれもんじゃないのか。 重いだろうって? そりゃ重いさ。装甲服だから。多分トン単位だろう。だが、動力付きならどうだ? 最近じゃ自転車だって補助動力がついてて坂道も楽チンというのがあるじゃないか。 ましてや、パワードスーツの基本思想は「自分の力を数倍に」である。機械仕掛けの鉄の鎧でどんな奴でも即席スーパーマンにしようというのだ。 少なくとも、通常の人間の三倍ぐらいは期待したいものだ。それぐらいのスピードで走れば、バスぐらい間に合うだろう。いや・・・もうバスすら必要でないのかもしれない。 そうだな・・・キーワードは「着る車」。このコンセプトで、イメージしよう。 イメージせよ!! 深夜の通販番組みたいに紹介すると、こうだ。 ![]() 真冬の寒空、安物のカシミアコートで十分ですか? 出先の不意の銃撃戦、あなたならどうしますか? 内蔵動力付き。複合装甲と断熱材で全身を覆い、冷暖房完備。 そう!! 今が着込みどき!! 高機動外骨格式パワードスーツ「宇宙の戦士」!!!! 各部に感圧センサーを配した逆フィードバック方式なので操縦は身につけて、手足を動かすだけの簡便さ。デパートの屋上で子供に風船を配るウサギかクマの着ぐるみみたいな感覚で、それこそ「服」のように着て動かせるので装甲服初心者も安心です。 これなら冬の寒風はもちろん、迫撃砲や放射能だって大丈夫!! 灼熱のサハラ砂漠、血も凍る極地でも快適に過ごせます。当社自慢の完全気密なので真空中でも大丈夫。お客様の希望で宇宙仕様にもお手軽チューン!! 手にはめればぴったりフィットのグローブ式インターフェースで、マニュピレーター・ハンドのコントロールも簡単。精密作業もお手の物で、編み物も卵を拾い上げることも楽々です。 身につけただけで運動能力は格段にパワーアップ。僅かな力で、車一台軽々と持ち上げます。当然、徒歩のスピードは一気に10倍に。しかし、通勤時間は10分の1に!! もっとスピードを! と、お急ぎの際は足の裏に仕込まれたローラーで高速走行も可能。 最高時速120キロ。普通免許をお持ちの方は公道も走れます。ウィンカーだって付いてるし、手信号も有効。そのときはナンバーを付けるのをお忘れなく。法定速度を守りましょう。 ビルの屋上までいくのにエレベーターや、ましてや階段を使うのがおっくう、ひとっ飛びしたい、横断歩道や川を飛び越えたい、というせっかちなあなたには背中のロケット・ブースターがうってつけ。 一回の全開ブーストで高度400メートルまで飛翔する優れ者。この機能を駆使した「蛙跳び」機動で地上の雑踏や車流れにわずらわされない立体的な通勤が可能です。これであなたも渋滞知らず。ただし、電線には気を付けて。屋内で使うと危険です。ブーストの際には上方がクリアかどうか確認しましょう。 右肩には取り外し式多目的バズーカを装備可能。会社や学校に行くのが面倒なあなたのために、いけすかない友人や部長を跡形もなく始末したいあなたのために、体調やメンツが悪くて飲み会に出席したくないあなたのために、誘導式高機動マイクロミサイルを5発装填発射可能。目標を跡形もなく粉砕できます(※ミサイルは別売りです)。威力はホンマモン(軍隊)の保証付き。ワンタッチ操作で全てを灰にしましょう。 もちろん身につけての睡眠も可能。 目覚ましタイマーをセットすれば朝のお目覚めもスムーズ。耐え難いくらいの強烈な電流が全身を30秒間駆けめぐり、どんな寝ぼすけさんでも強制的に目覚めさせます。 それでも起きないあなたでも大丈夫。オートパイロット機能が作動し、目を醒まさせる事なく無理矢理会社に連行します。 気になるオプション。オーディオユニット一式、バイザー投影式GPSナビゲーション・システム(テレビも見られて、インターネットもできる!)も標準装備。赤外線暗視鏡、指揮官用野戦通話装置、三次元レーダーもついてお買い得です。 今お買いあげのあなたにはハンドガン型携帯式火炎放射器をもう一丁サービス!! 西部のガンマンよろしく二丁構えで目の前のものを焼き払いましょう!! あなたも一台、「宇宙の戦士」!!! サイズや色はお好み次第。工賃無料でカスタマイズ・サービス実施中。お客様のご希望に応じます。 最近、巨大アリ生物にお悩みのあなた? 宇宙から飛来してきた悪徳宇宙人と大立ち回りを演じてみたいあなた? 「宇宙の戦士」をぜひお試しを!! 新しい世界が、あなたを待ってます。 あなたも一台、「宇宙の戦士」!!! ![]() トイレは一体、どうするのかと。 簡単な事だ。人類はもうすでに素晴らしいものを発明してるじゃないか。 「紙おむつ」でもつければいいのだ。大のほうは、なんとか装甲服を脱ぎ終わるまで我慢しているほかないが。これに関しては着脱を容易なように設計し、解決するしかない。人間、我慢できるものと我慢できないものがあるから。それでもまずいという時のために一瞬で脱出可能な「緊急パージ」機構もつけておくといいだろう。 あと、中でおならをすると大変なので、そこらへんの配慮にも一工夫したいところ。 というわけで、だれか作ってくれないだろうか。原付ぐらいの値段で。 |
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