第7回
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■ 移りゆく季節

 気がつけば、夜が涼しくなってきたものだ。肌を涼やかに撫でる風がなんとも心地良い。
 今年の夏も終わりゆくわけだ。
 時が移ろい、夏がその扉を閉ざしつつある。
 日々のうのうと暑さにうだっているうちに、灼熱の季節は駆け足で過ぎ去っていった。
 夏ってなんて短いんだ。毎年そう思う。そして過ぎ去った夏的日々に思いを馳せて、嫌と言うほど後悔のほぞを噛むのだ。
 それはなぜかというと、俺は己の中にある種の疑念を抱いたからに他ならない。
 お前は夏をエンジョイしたのか? と、俺は自分に問いかける。鏡の前で、自問自答してみたんだ。(作ってます)
 鏡の中の男はこう言うのだ。「はい、今年はしてません。」(作ってます)
 俺は暗然と首を振り、ふっとほろ苦く笑った。(作ってます)
 いや短いって、はかないひとときだって、わかっていたんだ。そう前もって覚悟してたんだ。だが、まさかこれほどとはな。俺としたことが、これは少々甘く見ていたようだ。
 しかしなんたる不覚よ。なんというモンキー的夏の過ごし方だったものか。
 今年は、海に行っていない。去年は、拙いクロールで微速前進しながら塩水の味を「もう勘弁」というくらい堪能したものだったが、海水浴などというものにまるで縁がなかった。スイカ割りもなし、脳天割りもなし。なんにも、なし。
 釣りにもいかなかったな(どうせ行ってもまたボウズだろうが)。ああ、バーベキューもしてない。屋内で焼肉はしたが、別段特記すべき事でもない。
 焼肉といえば、こんがりとした日焼けも、また然り。前の夏は偏った焼き方とをして「背中だけ黒い男」として周囲の人間に話題を提供したものだった。あの時は「両面をまんべんなく焼く」という基本を忘れ、己の愚かさを呪ったものだった。
 今年はどうか。そうとも、それすらないのだ。
 ただ、ひたすら暑かった・・・。
 ただ、ひたすらビールがうまかった・・・。
 そうだ、これだ。膝をピシャリとはたく。
 まあこの一事だけでも今年の夏は悲観すべきものではなかった、ということにしておこう。そう考えるほうが建設的だ。
 でもちょっぴり、おセンチな気分。
 したがって俺はこの度の己の不甲斐なさに関して、素敵な夏をもたらしてくれた太陽に、なにがしかの弁明と釈明と謝罪をせねばならんだろう。
 だがそれは、別の機会に譲る事にする。
 さて、秋である。
 これから日本人はそれぞれの「秋」を過ごしてゆくのだろう。
 食欲の秋、読書の秋、スポーツの秋、音楽の秋、勉学の秋、覗きの秋(犯罪です)・・・つまるところ過ごしやすいので何をするにせよ、やりやすいってこった。なんでもあり、なんでも上等。秋は四季の万能選手です。秋は季節のホームラン王です。
 なんでもいいのだ。おのおの、思う所を実行に移す時だ。
 肉欲の秋、コオロギフェチの秋、言論弾圧の秋、ゴロマキの秋、銀行強盗の秋、公文書偽造の秋・・・何でもしてみればいいのだ。当方は一切責任を負いません。

一口情報・・・
 今年の秋はとりわけ秋刀魚が安くて美味しいそうだ。抜きん出て反り返ってて黒くて硬くて身が締まっているそうだ。形がよい。指で身を押してみるがいい・・・どうだい、上ものだろ?
 秋の食卓を語る上で旬まっさかりの秋刀魚は激マストだ。たんと買い込んで食しちゃってください。
 はい終わり。

 おっと、今吹いた風はいい。秋って感じだ。ナイスガッツ賞。
 いつの間にか、ソウル御大アースウィンド・アンド・ファイヤーの「セプテンバー(定番過ぎ)」や、マイコーの「PYT(プリティ・ヤング・シング)」、GAPバンドの「アウトスタンディング」がしっくりくる季節になってきた。
 特にアースの「セプテンバー」なんかはこの時期になると、ラジオとかでよくかかる。パワープレイもここに極まれりって感じで、飽きるほどよく聴く。本当に秋って感じでいい曲だ。
 どぅーゆーりめんばっ、てなもんである。
 アースの長、モーリス・ホワイト、最高だ。特に「ブギー・ワンダー・ランド」で見せたあのバーコード親父の寝間着姿のような衣装(ブーツ、金ラメ付)はいい。それを額の上がったアフロでやるんだからなんとも素晴らしい。まさに80年代的センス。俺は好きだ。
 洋ものばかりでは恐縮なのでこちらもんをあげれば、山下達郎の奥さんの竹内まりやもぐっとくる。外してはいけない要素だ。秋刀魚と松茸と竹内まりやは日本の秋には欠かせない(極言)。
 それにしても夫が夏で、奥さんが秋。見事な連携だ。あの人の歌にも「セプテンバー」ってのがある。こちらも、秋口になればよくラジオとかで耳にする。「不思議なピーチパイ」もいい。
 赤みがかる緑、澄み渡った空に涼風。それを窓辺から眺めつつ、本を広げる。傍らには背を丸める猫、鼻腔をくすぐるコーヒーの香り。耳には、ラジオから思いがけず流れる竹内まりやのヒットメドレー・・・完璧。シチュエーションを喫茶店にしてもよい。
 また、秋の夜長に、ビール片手にアースってのもいい。住まいに屋上かバルコニーでもあったら言うことはないが、ない場合は窓を開けるだけで我慢だ。柔らかい空気の流れと、秋の大気の匂いを感じられればそれでよい。あ、今思い出したけど、リセット・メレンデスの「グッディグッディ」もマストだな。グリッグリッてな具合だ。まああれは、もうちょっと秋が深まってからか。
 最新のR&Bも実に結構。だが、その前にこういう定番もの(一部例外あり)を押さえてみるのも味わい深いものだ。
 早速、ちぇけら。ちぇけちぇけら(スクラッチ)。

 全てのものには、始まりがあり、終わりがある。永遠なんてものはそう滅多に転がってはいない。永遠を信じようとも、終わるものは終わるのである。
 季節もまた、然り。夏は余韻を残しつつ、去りつつある。太陽の残り香を漂わせながら、愛しげにひしと抱きしめていた我々の腕の間をすり抜けて、「また今度ね」と静かにドアを閉ざす。名残惜しんで構わないが、後を追ってはならない。
 だって、秋が靴音を響かせて、もうそこまで来てるんだから。気がついたら、背中から我々を抱きしめているのである。
 過ぎゆく季節にこうべを垂れて、新たな季節を、ちぇけ、ちぇけちぇけら(またコスり)。

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