第24回
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■ 2004年を振り返れ

 もう3年も連続で正月に仕事の山場が来る。夏や秋にどうがんばっても、必然的に年末はこういう結末になるのだ。1年を振り返るとしたら、今しかないと思った。
 29歳だから毎月29日にニクを食う。こんなくだらない趣旨で賛同者を募ったら、なんと社内に8人もいたのだ。バカで単純で心から愛すべき人たちだ。そんなわけで3月は焼肉の回になった。

 焼肉という行為においてもっとも重要なのは、誰と食べるかだ。そして、自律神経のそう強くない僕にとって重要になってくるのは部屋の温度だ。いかにうまいニクでも、寒すぎる部屋で食うのではそればかりに気をとられてだめだ。もちろん、うるさい親父が横にずっといて、それを焼け、それに浸けろ、それを食え、と言われるのもいけない。

 その店での焼肉はこれらの条件をクリアしており、最高の催しとなった。そして、1枚のニクにこれほどまでに執着したことはなかった。
 この回の出席者5人の前に、次々とニクが運ばれてくる。例えばカルビは8枚、ロースが9枚。全員29歳なので、上下関係はない。1人1枚は食べられる。しかしさらなる1枚を誰が食べるかで、毎回壮絶なじゃんけんとなった。
 敗者の屈辱。しかもその直前に1枚食べているものだから、隣で食っているやつが口に運んだときに口の中に広がる感じが手に取るようにわかる。これは文字通り歯がゆい。

 ああ世の中にはこんな素晴らしいニクがあったのかと極めて満足しながらも、この革命的瞬間は人生において一度しか味わえないのかと思うと、少し残念な気もした。

 そして夏のある日。電車でまもなく新浦安に着くというときに、横にいた小学3年生くらいの子に気づいた。手には乗り換えの手順をプリントアウトした紙を持っている。舞浜から乗ってきたディズニーランド帰りの2人組み。親がいないところをみると、夏休みのちょっとした冒険といったところだろう。いかにも不安そうな顔をしているので、聞いてみる。
「どこに行くの?」
「西船橋」
「あー、この電車じゃいかないから、この駅で降りて」
と人差し指を下に向ける。
ん?という顔をする。
「この駅で降りて、同じホームで4分待つと武蔵野線が来るからそれにのって。」
といっても飲み込めていない様子。
「4分待つとオレンジ色の電車が来るからそれにのってね。」
まぁわかってくれたか。
同じホームに行き先の違う電車がいくつも来る。なかなか難しい概念のようだ。いかに簡潔に説明をするか、なんてシステムエンジニアが仕事で常に考えていることとさしてかわらんのではないか。
   

 そして8月のある日、3日間休みがとれたので、北海道に行こうと思ったが、気がついたら香港行きのチケットが手元にあった。10時間かけてアメリカに行こうとするときとは随分気持ちが違うことに気づく。4時間くらいで着いてしまうのと、アメリカではなくアジアというのが気持ちがゆるむ理由だろうか。
 福岡空港のように都内のど真ん中に降りていくのかと思いきや、なんだか山水画の真ん中に降りてきた。僕の香港のイメージはクーロンズゲートや、シェンムーな世界。ゲームに偏りすぎだ。えらい速い電車にのって20分ほどで九龍駅に到着。クーロンじゃなくて、カオルーンって読むのか。
 ただならぬ活気、ただならぬ漢字の洪水。自分が動くと漢字が凄い勢いで迫ってくる。漢字なので、読み方は全然わからずとも、おおよそ意味がわかってしまうのが凄い。少し歩けば「お兄さん、ニセモノ、時計」なんて声かけられ、露天にはいかにもニセモノという商品の数々がならぶ。
 ただならぬ蒸し暑さ。街中サウナのような感じだ。福岡県民にはそれほど違和感ない感じだけれど、からっとした地方の人は相当滅入るのではないか。
 夜は地元の人で賑わう飲茶のお店へ。小籠包に完全にやられた。うま過ぎるのです。うまいお茶を飲みつつ、英語で「おばちゃん!小籠包もう1枚!」。大変幸せな思いにひたりながらホテルに戻って寝た。なんて素晴らしい旅行だ。
 来年はこの店で小籠包を食うためだけに香港に行ってもいいと思っている。



迫り来る漢字


何がでてくるかわからん


地震に弱そうな超高層建築
 
   

 そんなわけで、向上心を失って会話のない集団に、これまた会話の少ないダメ上司がきて1年半。毎日同じことを繰り返すだけで、新しいことに挑戦しなくても、満足する人も世の中にはいるだろう、いても許されるだろう。
 でもそんな会社に未来はないのだ。何歳も年上の上司を1年間叱り続けてきた。毎週言い続ければいつか心を入れ替えてやってくれると期待した。しかしやがて僕は、人には素質というものがあることに気づいた。僕はこの会社を去ることにした。
 人は何かに所属したがる。評価されたがる。しかし人は所属した会社によって評価されない。何をやってきたかで評価されるのだ。
 2005年はついに30歳だ。ニクに別れを告げ、ミソの時代へ。もちろん素材は重要だ。しかしこれからは素材をいかに引き立てるかについてさらに修行する必要がある。

   

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