第23回
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■ ひとり残らず追い越せ

通勤はアトラクションだ。毎日同じルートを通るのに、すれ違う人々の雰囲気が違うというだけでずいぶんと味わいが変わってくる。通勤に変化を持たせるためにまず路線を変えてはどうだろう。それが難しければ引っ越してみるのも手だ。

東京の人はなぜあんなに急ぐのか。朝だけならまだしも、夕方も夜も深夜も常に急いでいる。「乗り換えスピード命」と背中に書いてある人もいる。彼は新木場駅の上りエスカレータを駆け上がり、新浦安駅の下り階段を2段飛びで降りていく。何をそんなに急いでいるのか。

僕の一日は海辺のバス停から始まる。東京ベイシティバスに乗り新浦安駅で降りるとJR京葉線で、2つ目の駅は舞浜だ。ディズニーリゾートラインをご利用のお客様はお乗換えの駅だ。そのため、雨の月曜の朝でも「さあ遊びにいくぞ」という顔をした人たちが電車の中にいる。新聞よりカメラを提げている人のほうが多いのではないかと思うくらいだ。帰りは帰りで、いい年した大人が、妙なネズミの耳をつけて乗ってくる。お子様たちは床に座り込む。お姉さまは携帯電話で大声で話し出す。おばちゃんは人を押しのけ我先にと今空いたばかりの座席へ突進する。とても通勤電車とは思えない世界が広がる。

そんな京葉線を降りたら、帝都高速度交通営団・有楽町線に乗り換える。帝都ってかっこいいなーと思っていたら、来年には東京地下鉄株式会社になるらしい。今のうちですぞ。有楽町線は東西線などに比べれば実に平和な路線だ。しかも新木場は始発の駅ということで、結構座れるので助かる。しかしだ。後から乗ってきた丈の短いスカートの女性が前に座ってしまうことがあるのだ。僕の平和な朝に割り込んでくる。いつもならぼーっと正面やや下方を見つめているのだが、仕方ないのでつり革広告に目をやる。そんなものはすぐに読み終わってしまうので、寝たふりをしたりする。

有楽町線新富町駅に着く。ここで通勤は終わったわけではない。地上までの階段は険しい。地下鉄内は禁煙だというのに、途中でタバコに火をつけやがるやつがいるのだ。風は入り口から中に向かって吹いているのに。さらに地上にも歩きタバコ野郎がいて油断ならない。彼らをすべて追い抜くまでが遠足だ。通勤だ。

そうして通勤経路の最適化が進んでいく。まず最初は電車に乗る位置を、降りる駅のホームに合わせて最適化する。このあたりは集団心理学の世界だ。多くの通勤客が考えそうなことに合わせていては駄目だ。エスカレーターより階段、階段上がってちょっと歩いたところよりは上がってすぐのところ。ちょっと短い8両編成の電車の場合には少し後寄りに修正する工夫も必要だ。
電車を降りて歩くルートも重要だ。今信号が変わったばかりだから、少し急いで先の交差点を渡るほうがタバコの煙を避けやすい、雨だから公園は避けてドトールの前を渡ろうなど、常に頭は通勤経路最適化シミュレーションでいっぱいだ。

しかしどれだけ考えようとも、電車はよく遅れるし、問題があるとすぐ止まってしまう。そんなことでめげるわけにはいかないのだ。全てはゲームの演出で、僕はそれをぜひともクリアしたい。現実世界では、1−2の土管から4面にワープするわけにはいかないのだ。

   

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