第20回
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■ スマート

 本拠地を東京に移して半年。車もいっしょに引っ越してきたのはいいけれど、休日もことごとく出勤となる。たまの休みに車で買い物に出かけると、湾岸線は朝から大渋滞。なんとなく車に乗る回数も減ってきた。福岡は車がないと不便で仕方なかったが、このバスと電車が走り回る都市では、車で移動したほうがかえって時間がかかるように思う。しかもローンの返済は毎月あって、その上、駐車場代もかかるならば。

 売るしかないと思った。さっそく電話する。次の日には車を見にきて、その2日後売却。あっという間だった。僕はローンの残りが払えてしまえばそれでいいやと思っていたので、値段交渉を少しやった以外はこれといったトラブルもなく、何かを待つこともなく、気持ちよく売却完了。

 その日は雨だった。
 車の操作を教えて、営業の人にキーを渡す。
 営業の人の粋なはからいで、最後に駐車場からマンションの入り口までのわずか数十メートルを運転することになった。この車にのって行った場所が思い出される。

 車を降りて、自分の車だったスマートを見送る。
 青い小さな車がライトを点けて雨の中を走ってゆくのを見送る。
 人がこの車を運転しているのを見たのははじめてかもしれない。

 この時を味わうために僕は車を買ったのかもしれないと思った。


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