第17回
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■ 連星系の崩壊

 今年もE3のためにロサンゼルスへ行ってきた。E3は世界規模のゲームの展示会。ファミコンが世の中に登場したときを元年とするならば、西暦2002年はゲーム歴でちょうど20年目となるが、今年はとりわけおもしろいゲームを発見できなかった。売れたゲームの続編が多く、新しい切り口のゲームがとても少なかった。続編が駄目と言っているわけではないが、続編ばかりというのはおもしろくない事態だ。
 目立ったのは殺し合いゲームだ。少々の変化では飛びつかないほどゲームに慣れてしまった人たちは、派手な演出で、テレビCMでまくしたてられ映画的手法で作られたゲームを好み、地味で奥深いゲームよりは、短絡的な快楽の追求と細切れの時間を使った遊びに執着し、結果、人殺しのゲームが飛ぶように売れている。テロで大勢の人が犠牲になったのに、なぜ人々はネットワークに接続してまで殺し合いのゲームをするのか。
 さて、しかるべき時刻になると、会社で一番に「はらへった」と言い放ちはじめることで有名な僕、食いすぎ番長としては、取った分だけ払う方式のホテルの朝食ビュッフェにおいても、食いすぎの傾向にあった。いや、取った分全部を食いきれなかったので食いすぎではなく、取りすぎといえよう。
 と思っていたら、向かいに座った高橋ピョン太氏もやはり取りすぎ番長だった。ダウンタウンのはずれにあるフィゲロアホテルは、古くて薄暗いホテル。汚いわけではない。なんとも気の抜けたこの雰囲気を田川ラメ夫氏、高橋ピョン太氏とこの僕は気に入っているのだ。3人はフィゲロア仲間といえる。オレンジジュース、コーヒー、パン2個、パンケーキ2枚、スクランブルエッグに、ベーコン、ソーセージ、ポテト、ヨーグルト。日本から到着して時差ぼけも残る中、この量は無謀としかいえない量だが、「たしか去年はこれぐらい食った」という、腹の中のあいまいな記憶がそうさせるのだろう。
   

 最終日まで会場を歩きまわった。任天堂が熱かった。毎年思うけれど、任天堂はゲームってこうじゃないの?ということを、はっと思い出させてくれる。レジェンド・オブ・ゼルダですよ。メトロイド・フュージョンですよ。見ていてわくわくした。そして最終日の夜はみんなでスターウォーズ・エピソード2を見にいった。初のデジタル上映を体験した。ちらつきがないのは素晴らしいと思う。当然字幕がないので、何言ってるかほとんどわからないけれど、登場人物を知っているというだけでかなり話の流れを理解できる。これまで見てきた話がどうでもよくなるほど、ぐっとくる凄い展開が最後に待っている。一方、エピソード1からエピソード4に続く導線がはられすぎていて、つじつまあわせのようになってきてる感もあるが、さすがジョージ。うまいまとめ方だ。
 ところで、こんな凄い作品を見にきて、「ほとんど寝ていた」と言う人がいる。高橋ピョン太氏だ。僕が「いやー、最後凄かったっすねー」とか言うと、「寝てたからよく分からない」と答える。なんだ寝てたのかと思ったら、「You love me?って言うとこ、あそこよかったよねー」なんて微妙なところを突いてくる。この人凄いかもしれないと思った。でも本人は「長い予告編を見たようだ。」と残していた。


 

 一方、今年も車であちこち車で買い物に連れて行ってくれ、ライターで通訳で旅行のコーディネーターである今井さんに大変お世話になった。お世話になっておきながらなんだが、2年目の今年気付いたことがある。
 
 出発前のメールでは空港まで迎えにきてくれるとのありがたいお言葉。そこで、空港に着くなり電話してみた。携帯から割れんばかりの声が聞こえてきた。ちょっと来れなくなったのでタクシーで移動しておいてとのこと。その直後、受話音量の設定が間違っていたと思って確認したら、普通の音量だった。携帯がこわれているか、もしくは今井さんの声がでかすぎるかだ。後日、移動中に車中でこの話題になり、ピョン太氏と浅井さんから、今井さんの声は最初に会った時から大きいということを聞いた。僕は、最初に会った時は、あの騒音だらけのE3会場で聞き取りやすいように、わざと声を張り上げているのではないかと思ったが、今年、それがいつでもどこでも少し大きめなことに気付いたのだ。
 
 
 帰国の日、出発の3時間前に空港に着き、ラウンジでいっしょになったので、これまであまり話したことのなかったドワンゴの浅井さんと話しつづけた。浅井さんも、ものすごい勢いで生きてきた人に違いない。セガでゲーム制作の指揮を執っていた人が、なぜ今は海外の人と交渉する立場にいるのだろう。たとえるなら、それは船の製造工場の設計技師が、気付いたらノルウェーで鮭の買い付けをやっていたという感じだ。僕よりも何段も上のスケールでものごとを考えていそうな気がする。この先、何か起こりそうで楽しみだ。
 東京と福岡を毎週往復しはじめて2年。だが、それに終止符が打たれる時が来た。東京都と福岡市に自宅を持ち、しかもどちらにも生活感のない、いわば現代社会に浮かぶ藻のような生活が突然終わる。今後は千葉県民としてしばらくやっていくつもりだ。
 毎週2回は空を飛んでいた僕は、2年間で200回、1回の搭乗につき120ccのコーヒー、これまでになんと24リットルを空の上で飲み干したことになる。しかし、飛行機はサハラ砂漠より乾燥している。1時間に80ccが体内から脱水するというから油断できない。
 さて、会社というものは生き物だ。僕がつくりだしたものであっても、先が読めないところがある。だから経営はおもしろいのかもしれないが、常に不安がつきまとう職業でもある。ミスタードーナツだって、添加物が検出されたとかされないとか騒がれるだけで、一夜にして状況は一変する。世の移ろいとそれに対峙する自分は抜き差しならぬ関係にあることがよくわかる。

 アンドロメダ銀河が秒速100キロで向かってきている事実も十分衝撃的だったのに、最近なんと、火星に地下氷原があるらしいとの観測結果が世界に報じられた。現在探査機マーズオデッセイが水素の存在を確認しようとしているところだ。また木星の衛星エウロパにも厚さが16キロに及ぶ氷の層が発見された。水の存在は、生命がいるかもしれないと期待にぐっと近づく。地球は時空の中心ではなく、太陽のまわりをまわっている惑星の1つにすぎないという事実はかつて世界に衝撃をあたえた。もし他の惑星にも生命が存在することが確認されたときには、人類はさらに新たな宇宙観を持つことになるだろう。宇宙も誕生してからずっと膨張をつづけている。ずっと普遍なものなどないのだ。

 二重生活を終えることで、土日にじっくり考える時間ができるということも、僕にとってはかつて体験したことのないほどの劇的な変化だ。奥底に溜まり続けたアイデアが企画としてまとまっていくのか、それはわからないけれど、すべてを、たとえゲームを世に送りだしたときにかかえた多額の借金を返しつづけるという体験でさえも、いずれはゲームに昇華させてやろうと思っている。本当は、天体観測のように、生きている僕を観察するということそのものが、あなたにとってすでにゲームなのかもしれない。

 これまで、年1回のペースで激しく引越を続けてきた引越班長としては、今回も激しく引越する。なぜなら、現在は2箇所ある自宅の両方を引き上げて、東京郊外に引っ越すからだ。かつてない規模で引越をするので、引越番長を名乗ってもよいだろう。つまりそれは例えば、2つある冷蔵庫を2つとも新居に移動させると、何もかもを一度に冷蔵できる環境が完成することを意味する。借金の返済予定表も、過去の忘れがたい失態の数々とともに急速冷凍してしまいたい。とりわけどうしようもないのは、来客用にと用意しておいた2セットずつある布団だ。それらが新居に結集するとなんと4セットの布団をかかえる、おそらくは千葉県でも5本の指に入る布団番長となる。そこまでなれば、今後は貸し布団業で借金を返していこうなどと、まさに逆転の発想も生まれるに違いない。

 ともかく空飛ぶ時代は終わった。これからは千葉県浦安市が熱いと断言する。

   

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