第16回
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■ イギリスからの生還(3)

 朝食をたっぷりとって出発。一路エジンバラへ。レンタカーは北へ走り、モーターウェイを北上。途中、荒野のようなところも走る。鉄道を横にみながらひたすらモーターウェイ。すぐあきる。クイーンマザーのお葬式がラジオでずっと中継されていた。眠いので、BBCの葬式の中継をラジオで大音量で聞きながらドライブを続ける。バグパイプの音がラジオから聞こえてくる。こういうシーンにバグパイプの音色はすごくあう。映画バックドラフトで聞こえてきたとき、サントリーのラジオCMで流れていたとき、何かをゆさぶられるような感じがした。しかし、葬式の中継を大音量で流しながら車を走らせている日本人。想像しただけで凄い迫力だ。

   
 看板は大きくて読みやすい。読みやすいが地名は全然よめない。看板のアルファベットのかたまりをぱっと見て、図形としてではなく、単語として認識できるようになるには、日頃から見慣れている必要がある。途中、モーターウェイの売店で地図を買う。エジンバラの地図ではなくて、すでに立ち去った湖水地方の地図を買う。写真がなくても、道路地図をみかえすと風景が思い出せるから不思議だ。
 スコットランドに入る。しばらくいくとエジンバラ。エジンバラは石畳の町。起伏が激しい。レンタカーをかえす。サインも何もせず金額だけ確認しておわり。簡単だ。
 駅のほうに歩いていく。どこからともなくバグパイプの音がきこえてくる。スカートをはいて歩いているおじさんがいる。ああ、紛れもなくここはスコットランドだ。今回の旅の目的の1つ、バグパイプを街頭で演奏するスカート男をしばらくながめる。この音は東京ではだめだ。イギリスのこの町並みを後ろにして聞こえてこなくてはならない。
 
 エジンバラのニュータウンの端にあるB&Bに到着。なんというか、この国特有の建築様式だ。まず道路がある。それはちょっと曲がっている。三日月のようになっている。それにそって3階建ての家がならんでいるのだが、家と家は完全につながって見える。連続する1つの巨大な建物のようにも見え、それに玄関のドアがたくさんついているかのようだ。ドアとドアの間隔はそんなに広くないので中は狭そうだが、3階建てで、しかも奥行きが結構あるので、おもったより広く感じる。そしてその裏にはさらに庭があった。本日の宿は、そんな風にならんだドアの1つから入るごく普通の家で、看板もなにもないのに、家の中の空いている部屋を旅行者に提供しているという感じだ。
 荷物をおいて、ふたたび駅へ。

 当日買うと高いので、ロンドンまでのチケットを前売りで買う。20分で1ポンドのインターネットカフェでブリティッシュミッドランドのページを調べると、飛行機は150ポンド以上。一方、朝9時発の特急インターシティは75ポンドだ。迷わず列車で帰ることにする。
 王立植物園に行く。植物園というにはあまりに広大で、公園のようだった。スーパーにもいく。旅行にいったら地元のスーパーに行くと楽しい。お土産を買うならスーパーだ。スコットランドのサバ缶を買う。いかにもあやしい一品だが、人にあげるものだ。気にせず買う。夜はイタめし屋でパスタをたべる。にこにこテキパキの店員の応対。日本人はスプーンがいるんだよね、と言ってスプーンもだしてくるような、他民族の習慣に詳しい、いい店員だ。かなり好印象なイタリア料理店だったが、やっぱりゆで過ぎだった。ちなみにこの国の人はナイフで切りながらパスタを食べるとか。スプーン使って食べる日本人と、ナイフで切り裂いて食べるイギリス人。変な文化度では、かなりいい勝負なのではないか。
 宿に帰ってテレビをつける。クイズ番組が多い。5つしかチャンネルがないテレビは、クイズかお葬式の再放送だった。

 次の朝、エジンバラ城まで歩く。城はけわしい山の頂上にあって、遠くから見上げるシルエットがすでに美しい。城のなかは、豪華なところもあれば、地下には狭い牢屋もあったりして現実的。城内の宝飾店に「いなかものは帰れ」と日本語で記帳してかえる。そういえば、きえさり草を持ってくるのを忘れた。

   ロイヤルマイルの子供連れがやたらいるカフェでフィッシュアンドチップス。テイクアウト(テイクアウェイ)のお店より上品な感じで、皿に乗ってでてくる。魚のフライと山ほどのフライドポテト。チップスとはフライドポテトのこと。ちなみにいわゆるポテトチップスのほうは、クリスプスという。さて、これに塩、こしょう、モルトビネガー(酢)をじゃぶじゃぶかけて食べる。もうこの国の料理は何がなんだかわからなくなってきた。  
   エジンバラ美術館へ。とにかく絵が大きい。仰ぎ見る感じで壁に絵がかけてある。続いてバスで動物園へ。バスの1日乗車券を買う。変なレシートみたいなものをちぎり取る。この紙切れが1日乗車券。
 運転手は何もいわない。どこで降りるかさっぱりわからないので、それらしいところが近づいてきたら、すかさずボタンをおしてあわてて降りる。この動物園は広い。とても広い。サファリみたいなところまである。めずらしい動物もかなりいる。キリンは首が長すぎて、サイはあまりに大きすぎた。
 夕食は町に戻って、レストランでミックスグリル。どれも信じられないほどまずいが、なかでもソーセージがひどい。そもそもソーセージの定義が違う。肉に小麦粉がまぜてある。あるいは肉が入っていないかと思われる。意味がわからない。
 結局何を食べたかというと、つけあわせのフライドポテト。塩とこしょうを大量にかけて食べる。うまいなー、ポテト。
 朝7時起床。8時にB&Bを出る。徒歩でエジンバラ駅へ。エジンバラは坂だらけ。この数日でかなり足が鍛えられた。
 9時発ロンドン・キングスクロス駅行きは、電光掲示板によると、1分遅れで到着の予定。ところが全然やってこない。なのに駅には秒まで表示している時計があったりして、正確さをめざしているかどうかまったく不明。インターシティはさすがに速い。速いといっても4時間半はかかるので、外をながめている。ひつじがいる。ひつじ飼いゲームの構想をまとめるも、ひつじは基本的に草を食んでいるので単調な模様眺めのゲームとなりそう。やはりひつじは執事として王さまの横なんかに立っているほうがいい。
 キングスクロスへ到着。空港行きエアバスをさがす。工事中の道路の脇にバス停を発見。2時30分発のバスは20分ごろ到着し、なんと25分には発車してしまう。おいおいせめて定刻まで待てよ。
 2階の一番前は見晴らしがよくてよい。市内を走る一般の路線バスは、車両の後方のドアは開放されていて、いつでも乗り降りできるようだ。手すりがついていて、走り始めたバスに飛び乗ったり、渋滞で歩いたほうが速いやと判断した乗客がのろのろ運転の合い間に大量に降りていく。大変合理的だ。いつも思うのだが、イギリスの「合理的」という場面には絶えず「適当」という印象がついてまわる。いったいどうやって料金を回収しているのかと思う。 おおいに混雑するロンドンの街中を通り抜けて4時ごろ空港に到着。

 ヒースローのレストランで、ミートソーススパゲティを頼むと、何時間か前にまとめてゆでたような麺が半分乾いた状態ででてきた。ああ、はやく日本へ帰りたい。

 天気もよくて、湖のドライブはよかったし、歩きまわって見た景色も最高だった。ケンダルのB&Bは静かでゆっくりすごせたし、ドラクエ3以来気になっていたエジンバラ城にも行けた。エジンバラ美術館も動物園もよかった。

 ただ、メシがまずかっただけなのだ。
 メシがまずい。それだけではないか。

 旅行の終わりにはいつも、またいつか来たいなと思いながら名残惜しくその場を去る。その瞬間がなんともいえない。

 しかし、この旅は違う。
 どれほど機内食に期待しながら空港に向かったことか。

   

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