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第11回 | |
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| ■ 武士と入院(2) 入院前日、いつもの牛丼を食べに行く。築地場外市場、牛丼の「大森」だ。 いやー、入院するんですよ、というと、「今日はお見舞いだから、それサービスしときますよ。」と、こないだ退院されたばかりのご主人。うれしいではないか。ご主人も元気そうでなによりだ。 翌朝つまり入院当日、荷物を持って普段の通勤とまったく同じ駅で降りる。まっすぐ病院に向かう。会社と病院はおどろくほど近いのだ。 |
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病室に戻ると、体温はかって、血圧。まぁ余裕ですな。いくらでもやっていただきたい。あと、ネームバンドをつけられた。カードも身分証明もなくなった今、これだけが患者を識別する唯一のタグとなる。手術も点滴もあらゆるシーンで本人確認が行われるのだ。 |
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夜ねむれないとかなわないなと思って、眠いのを必死にこらえて、起きていると夕食が運ばれてくる。これで手術後まで断食となると思うと、白ごはんでさえ、食べてしまいたいほどいとおしい。あっという間に食べ終わると、あとはシャワーを浴びて寝るだけだ。 「大難大変に遭うても動転せぬといふは、まだしきなり。大変に遭うては歓喜踊躍して勇み進むべきなり。一関越えたる所なり。「水増されば船高し。」といふが如し。」 なるほどそうか、と思って寝、起きたら朝6時だった。いい朝だ。なんて僕という人間はおめでたいやつだろう。こういうときは恐怖と不安から眠れないのではないかと思っていた。その後の時間、手術までは看護婦ペースで進む。手術のきっかり1時間前にさらさらの粉末を少量の水で飲み込む。精神状態を安定させる薬のようだ。キースジャレットのケルンコンサートを聞いていると時間になった。手術用の服に着替える。パンツまで脱がされて、ふんどしみたいなものをはかされる。足にはでかい足袋のようなものをはかされる。薬が効いてきてぼーっとしているので、看護婦にやられるまま。もうなんでもしてくれという感じになってくる。病室のドアが全開になり、僕は寝たままベッドごと運ばれる。まだ全然元気なのにベッドごと運ばれるのは変な感じだ。天井を追いかけながら、エレベーターの脇を通るともう中央手術室だ。前日歩いてまわったので、そのドアのむこうに中央手術室があって、隣には救急救命センターがあるということは知っていたが、当然向こう側がどうなっているかはまったくわからない。 「口で大きく息をしながら、ほら、楽しいことを考えて」 そして、突然だった。地獄の時間が終わった。もう意識はふらふらだ。手術室から運ばれて、経過観察室へ。この何も衝撃のない、ただ静かにながれる時間が心地よかった。永遠の平和を感じた。終わったのだ。 |
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