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第9回 | |
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| ■ 買い物と宇宙 売りたいものが買いたい人に買われる。その結果市場というものが形成される。それはサービスのように形がないものかもしれない。 例えば、電車に乗る時に切符を買う。より便利でより快適な電車に乗る。 コンビニで弁当を買う。よりうまい弁当を買おうとする。あったかい漬物がついている弁当はどうか。 オークションに出たファミコン用ソフト「ミネルバトンサーガ」に入札する。説明書と箱があったほうがよりよい。 ホンダシビックを買おうとしても、スマートを買ってしまう。車は2人乗ればそれでよろしい。フェリーはの料金は車の種類ではなく、その大きさで決まるのだ。 ところで、ものには説明がつきものだ。 爽涼感のある吟醸香を漂わせ、ふんわりと広がる柔らかい旨味がとても印象的な・・・純米吟醸「くどき上手」の紹介だ。ひょっとすると、これが決め手となり衝動買いしてしまう人もいるだろう。 本もそうだ。 映画のように座っていてはわからないので、手にとって裏返し、ちょっとした紹介文を読んで理解し、あるいは衝撃を受けるだろう。店の人のセンスと工夫次第でもその本の運命がずいぶんと変わってしまう。 人間にとって最もだらしがない気分とは?カーディガンを着る人に悪人はいないのか?新聞、人名、日常会話、あるいはバレリーナの足に関する考察から、その裏に潜む宇宙の真理に迫る。牛に向かってひたすら歩き続け「牛的人生」を探究する岸田賞作家が、独自の視点で解き明かす奇妙な現象の数々。本書を一読すれば、退屈な日常がなんだかシュールで過激な世界に変わってくる。まぁ、ここまで書いてあれば「牛への道」を買う動機には十分だ。 なかには椅子のように余計な説明なしにそのままで全てを語るものもあるが、やはり世の中の大半のものは、例えばトイレを掃除するブラシのように、簡単な説明がないと他人に、類似品との違いが、その良さが伝わらない。 FのSMSを売ります。もちろん合法です。 なるほどね、という顔でその人は案内を見ていたが、僕には謎だらけだ。何を売りたいのかも分からないが、「もちろん合法」という書き出しも気になる。次に物件の詳細が書かれる。 ・被りは看板部が被られてます。 「被りは」の意味も分からないが、「被りは」と書き出して「被られています」という終わり方はますます分からない。第一、「覗かれます」という家を誰が買うもんか。 続いて周囲の状況だ。
分からない。本当にわからない。きっと外国の話だろう。「動物は少なめ」と特記しなければならないとは、大変な地域に違いない。 最後に取引に関する注意事項だ。 鯖はユーです。ふざけているとしか思えない。 ネットワークゲームの中で家を買うのもかなり大変なようだ。 またある人が韓国の車「マティス」の購入に踏み切った。手ごろな価格とデザインが決め手になったのだろうと推測するが、カタログを読んで買ったとはとても思えない。 最高を目指すスーパーコンパクトカー、マティスは、ほかのクルマには見られない独特なスタイルがあります。「乗れば乗るほど走りたくなる」はやや難解だが、ここまではごく普通のカタログを読んでいる感覚で読める。そう、つまりカタログを見て車がほしくなる可能性はこの時点ではまだ残されているのだ。さて、ここから急に難しくなる。 ルーフキャリアをつけて走るマティスは、重い荷物を分かち合う暖かい隣人のようであり、50kgを乗せても力強く走ることができます。「重い荷物を分かち合う暖かい隣人」とは一体誰だ。いくら隣人でも「重い荷物を分かち合い」たくはないが、それが「暖かい」と表現される文化は新鮮だ。 まずい空気がカタログ中に漂ってきたが、この先であなたは驚愕するに十分な表現を見つけるだろう。 あなたがどこへ行っても、マティスのフォグランプは、あなたを目的地まで安全に行けるよう案内します。新世代の日本語の上達のポイントは「あなた」を連呼することだ。主語こそすべて。全ての文には主語が必須とされる。 だが、ものの説明は正しい日本語であるほうが怪しまれずに済むだろう。 しかしだ。よくよく考えてみれば、地球上での個人のものの売買など些末なことだ。自由にやってもらってよい。 |
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