第9回
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■ラブ&スリル

『丹下左膳余話 百万両の壷』
昭和10年
監督:山中貞雄
主演:大河内傳次郎

隻眼隻腕の剣豪、丹下左膳フェアー最終回。

さて、その数、激減中につき希少価値の“次男坊”。お婿さん候補にロックオン!されまくりでプロポーズ攻勢にウハウハ、か、と想像する今の世の中ですが、その昔、江戸時代における次男坊、三男坊とくりゃ、部屋住みの「冷や飯食いさ」と暴れん坊将軍も言うくらいだ。良いことってのが少なかったんじゃないか。

ここにも「遅れて生まれると差別がつくんだ!」といじけてる次男坊が一人。
というのも、この次男坊。父から一国一城を受け継いだ兄に対し、自分は、古ぼけた壷をただ一つ持たされて、ある道場の娘のところに婿に出された。兄は殿様だってのに、自分の婿入りの引き出物は壷一つ!なんちゅうケチンボな兄貴!わしゃ肩身が狭いんじゃ!というわけだ。

「あんな壷、納屋にほうり込んでおこう」とぼやいているところにやってきたのは、兄がよこした使者。「あの壷は、お家に伝わる宝物。いらないのならお返しくださいませんか」。はぁ〜ん?兄貴の頼みなんか聞いてやるか(ほんとは壷なんかいらんけどね)、兄貴に返すくらいなら屑屋に売るぜ、と突っぱねると、「百両あげますから壷をお返しください」ときた。何か妙だ。で、脅して聞き出した事情がこうだ。

あの壷には、百万両のありかを書いた地図がぬりこんである。

イエーーーーッス!!!
と浮かれる次男坊に、妻が一言。「売りましたのよ。十文で」

屑屋に売られた“百万両の壷”の行方を次男坊が追う。果たして!?
というお話。

この映画を見る私たちは、壷に百万両のありかを書いた地図がぬりこんであることをしょっぱなに知ってしまう。はっきり言って、スリラー映画だ。
冷や冷やシーンその1。百万両の秘密をまだ知らない次男坊が、壷を横倒しにして足でごろごろごろごろ、押したり引いたりしている。「ああぁ、危ない」。
その2。壷を買った屑屋が一日の仕事を終えて長屋に帰ってくる。他の壷と一緒に提げているので歩くたびに“ぐぅわらんがぁわらん”と壷たちがぶつかり合って揺れている。「ああぁ、危ない」。

屑屋と同じ長屋に住む子ども、安きちが金魚の入れものを探している。で、屑屋は、さっき次男坊の妻から十文で買った例の壷を安きちにくれてやる。

安きちは、ひょんなことで父親を亡くし左膳と関わり合いになる。一人ぼっちになった安きちを左膳は自分の家に連れて行く。といっても左膳は、矢場の女将、お藤の居候。矢場ってのは、弓で矢を射て、的に当たったら賞品がもらえる遊技場。いちおう、左膳はここでバウンサー、用心棒をしているのだ。
というわけで、金魚を入れた壷(百万両のね)を抱えてやって来た安きち。左膳とお藤に可愛がられて生活している。ある日、庭先で竹馬遊び。ヨロヨロとおっこちそうになって乱れた竹馬がひっかかり、壷がバタと倒れる。三度「ああぁ、危ない」。金魚死亡。壷は無事。

安きちが壷を手に入れた時点でスリルも最高潮だ。身丈の半分くらいある壷を抱えてエッチラオッチラ、画面を歩き回られるだけで「ああぁ、危ない」。

スリルだけじゃない。この映画は、左膳とお藤のカップルとしての形がいい。ラブよ。
例えば。

矢場のお客の送りをお藤が左膳に頼む。
「送ってあげてね」「いやだ!」
「送ってあげてちょうだいね」「いやだ!」
「送ってあげてね」「やだい!金輪際、送っちゃいかんぞ!」
場面変わって、左膳、送っている。

もうひとつ。

自分の父親が死んだことを知らずに矢場に来た安きち。
お藤は、左膳が告げたと思っている。
「かわいそうにねぇ。あの子、泣いた?」
(左膳は言ってない)
「腹が減ってるってんだ」
「誰があんな子に食わせてやるもんか!私が言って泣かしてきてやる!」
場面変わって、安きち、ご飯を食べている。
「おりこうだねぇ」とお藤。

万事こんな調子。私はこんな二人、好きだなぁ。でも、カップルの関係としてこういうのは、趣味じゃなかったり、経験がなかったり、で分からない人もいるかもしれない。ましてや、まだ子どもの安きちがこんな二人のやり取りを見たとしたら、彼らの結びつきを理解できるはずもなく、そこから一つ、必見のエピソードが描かれているので注目して。

最後にもうひとつ。日本語が可愛らしいことに注目されたい。
言葉使いというより、むしろイントネーション。本当に可愛らしい。
前述したお藤の「あの子、泣いた?」とか、左膳が、安きちの金魚を見て「ちいちゃいんだねぇ。大きいの欲しくないかい?」とか、何かに答えて言う「そうかい?」とか、ちょっとした拍子にキュートな発音が印象的に出てくるのが、とても気になる。日本語って可愛いんだなぁと思わせられる。映画を見て注耳して。

ちなみに左膳の剣は、2、3ヶ所くらいしか出てこない。少ないその場面だけでも、口に刀をくわえて左ですらりと抜いて、豪快に跳ね回っての怪剣は堪能できるけどね。そのことよりも他に見どころがあるという変わった左膳映画です。喋りも独特な大河内傳次郎の左膳ってのもぴったり。
監督は鬼才、山中貞雄。若くして亡くなった彼の作品で現存するのは3本だけだという。彼に関しては、また別の機会に。私は、この「百万両の壷」が一番のおすすめ。


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