第7回
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■ 秋の“丹下左膳”フェア〜2

『丹下左膳 乾雲坤龍の巻』
昭和37年
モノクロ
1時間27分
主演:大友柳太朗

「姓は丹下、名は左膳」の丹下左膳のお話。前回に引き続き。

隻眼隻腕の剣客、丹下左膳は何でもデカい。声もデカイし歩幅もデカい。斬り合う時の跳ね回る動きもデカけりゃ、口も顔もデカい(おっと、これは主演・大友柳太朗さんのせいか)。
それから。
嬉しい時、怒った時、悲しい時、しょげた時、感情の振れ幅もデカいデカい。この、感情の運動量の大きさと、感情の針が振れるタイミングが、私にとって左膳のチャームポイントだ。感情制御不能、という幼稚さとは違う。感情を表に出すか出さないか、とも別次元。“成熟した純情”なのだ。ここに、熱狂されたい。

というわけで、左膳の魅力にがっちりと卍固めを極められている私なのだけれど、実は脇固めもくらっているのであった。左膳映画には大体出てくる重要な脇役2人組×2をここでちょっと覚えておいて損は無いかも。

与吉&お藤
→左膳のお友達。悪態つきながら結局、左膳を助ける役回りが多い。左膳を加えてそれぞれの距離感が可愛い3人組。

大岡忠相&蒲生泰軒(がもう・たいけん)
→大岡忠相つまり大岡越前。“暴れん坊将軍”吉宗の時代にご活躍の、言わずと知れた例の町奉行。江戸で何か騒ぎが起こると必ず首をつっこんでくる。
そしてその手先となって働くのが、示現流の剣の達人・蒲生泰軒。別の左膳映画では「おい、忠相」と大岡越前を呼び捨てにしている。かと思えば、今回の映画ではちと情けない密偵風情に描かれていた。

さて、この映画『丹下左膳 乾雲坤龍の巻』の最初のシーンはちょっと衝撃だ。
なんたって両目と両腕がある左膳を初めて目の当たりにすることになるのだから。

江戸は本郷にある小野塚道場に忍び込んだ左膳。道場主・鉄斎がやすんでいる部屋の床の間には大小、二振りの刀。左膳が片方に手を延ばしたその時。気配に気付きはね起きる鉄斎。
「それが乾雲(けんうん)、坤龍(こんりゅう)と知ってのことか」
「むろん!」
と、右手で刀をつかむと同時に、左手で鉄斎に一太刀浴びせた左膳。どうと倒れる鉄斎。しかし、左膳も右目をバックリと斬られてしまったのだった。

とにかく片方の刀を奪って長屋に戻った左膳。「目玉ひとつに刀ひとつ。安い。安いもんだ」。
というのも、左膳が仕える相馬藩主ってのが刀剣コレクターのバカ殿で、小野塚道場門外不出の名刀、乾雲坤龍がどうしても欲しい。で、相馬藩きっての剣の使い手、丹下左膳に奪取命令。成功したら「500石の家増、剣道指南番に取りたてて、余が寵愛する千鳥を嫁にとらせる」と。剣が強くたって、泰平の世では腕の見せどころがない。だから下級武士には出世のチャンスなんてめったに巡ってこない、この機会を逃してはならない、と必死の左膳なのだった。

奪った「乾雲」を手に、殿の元へ馳せ参じた左膳だが、“二刀揃って真の名刀。いずれが欠けても値打ちは無い! バカもんが! うつけもんが! 余が参勤交代で国に帰る日までに死んでも坤龍を奪ってこい!”とバカ殿に怒鳴られて、再び小野塚道場に現われた左膳。さて、左膳は坤龍を手に入れることができたのか、左膳は出世できたのか、というお話。

この話をきっかけに、虚無スター・丹下左膳が誕生するわけなのだから、この映画の中では、左膳、実はすごくかっこ悪い。というより、要するに普通っぽい。出世できると信じて一生懸命やる、ボスに命じられたことが不条理でも一生懸命やる、っていうんだから。

しかし。嗚呼不憫なり、丹下左膳。その一生懸命は報われないどころか、左膳はハメられたのであった。

バカ殿は、盗みがバレても、左膳を切り離して(左膳は脱藩した人間ということにする)、相馬藩とは関係の無いことにするつもり。ハナからその算段だ。
そして、この騒ぎはバカ殿の企みだと知っている大岡越前はといえば、このままだとこんな騒ぎを起した相馬藩の“お家お取り潰し”は免れない、となると、浪人がドっと増えて江戸に流れ込む、なーんてことはごめんだ、と思っているのだ。つまり大岡越前も、ハナから、この事件は左膳だけを召し捕って、あとはうやむやにしておこうという腹なのだ。

というヒドい話なわけなので、相馬藩の中には、左膳の住む長屋にやってきて、バカ殿の本心を教えてくれる人もいた。それを、そっと聞いていたのがお隣に住むスリの与吉と、盗人仲間のお藤だ。
「何だか(左膳が)かわいそうになってきたな」
「侍なんて利口じゃできないねぇ」
と、しょんぼりする二人。

そう。左膳はかっこ悪く、脇役がすごくいいのだ、この映画。

脇固めその1。

左膳がハメられて牢屋に入れられてしまい、お隣が静かになった長屋で与吉とお藤がまたもやしょんぼりしている場面。
「よし、俺は侍専門のスリになるぜ」と与吉。「私はもう何もかも嫌になったよ」とお藤。そこで雨がザーッ。屋内なんだけど、古びた長屋のせいか、まるで外にいるみたいに降り込んでくるのが何だか可笑しい。さらに与吉が傘をさして言うことに「お空の星も泣いてらあ」。これがまた可笑しい。
(ここから話は急展開。この雨にまぎれて左膳を牢屋から盗み出そうと、与吉とお藤は思い付くのだ)


脇固めその2。

この話の中で、盗人のお藤が一緒に住んでいるのは、直参旗本の鈴川源十郎という男。とはいってもすんごい貧乏してるわけだ。この時代の武士ってのは。だから、お藤が盗んできたものを、源十郎が売っている。つまり盗人屋敷なのだけれど、腐っても旗本屋敷、おかみも手が出せない。という源十郎の、悪ぶり方が、非常にいいのだ。盗人のほうが手っ取り早く稼げるんだ、という打算的な悪というよりは、順序だてたらそうなっちゃったというような、生活感あふれる悪いやつなんだな。賭博シーンでも、おおらかな市井感が出ていてすごくいい。演じた山茶花究という役者に興味津々。

左膳は、いろんな役者さんが演じています。大友柳太朗、阪東妻三郎、月形龍之介、比較的最近では、丹波哲郎、緒形拳、藤田まことなど。がしかし、左膳を見るなら、ぜひ大河内伝次郎の左膳を見てほしい。「シェイは丹下、名はシャゼン」の大河内伝次郎だ。

次回、「秋の“丹下左膳”フェア〜」最終回!大河内伝次郎を大プッシュ!でも、私のいきつけレンタルビデオ屋には、大河内伝次郎の左膳は1本しか無いのよね。


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