第3回
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■ 鎖帷子なのでPUNK回転

赤西蠣太(昭和11年、モノクロ、1時間25分)

主演:片岡千恵蔵

サザエさんもびっくりなのである。
蠣太(かきた)、青鮫鱒次郎(あおざめ・ますじろう)、安甲(あんこう)、鱈之進(たらのしん)、鯖右衛門(さばえもん)……。
登場人物は海の生き物にちなんだ名前だらけのこの映画、原作は志賀直哉が書いた同名の小説で、日本の歴史に残る三大お家騒動の一つ、仙台の伊達藩で起こったお家騒動を題材にした話。

ある事情により、伊達藩の家督を二歳の亀千代が相続。これをめぐって家臣が対立。まずは、幼い藩主を支持する伊達安芸の一派。そして、伊達正宗の実子でありながら冷遇されてきたワシが跡目を継ぐなら今ぞ、と燃える伊達兵部の一派。映画の主人公・蠣太と、鱒次郎は、安芸派から兵部派に送り込まれたスパイという設定。相手側の情報収集をすべく家来になりすまして潜入している。ちなみに、蠣太はブ男。

潜入捜査は引き際が肝心。家来のフリをしているだけに、怪しまれずに姿をくらます必要がある。スパイ二人が頭を悩ませた結果、蠣太脱出については「武士の面よごし作戦」と決定。
とんでもなく恥ずかしいことをしでかして、いたたまれずに逃げ出した蠣太、というシナリオをえがこうというもの。さて、とんでもなく恥ずかしいこと、とは何か。

蠣太は、ナンバーワン美人腰元・小波にラブレターを書く。フラれて蠣太は屋敷中の笑い者、というシナリオ。しかし、小波から脈アリな返事が来て失敗。でも、ちょっとドキドキする蠣太。
そこで、小波宛てのラブレターを再び書き、わざとらしく廊下に落として誰かに拾われ、笑い者になる作戦に切り替える。こっちはなんとか成功。小波のことが気がかりではあるがミッション優先と、あっさり夜逃げするあたり、私の中で蠣太が“男をあげる”のである。

この蠣太ってのは、美形じゃないがいい男だ。熱くて淡白な人だから。
だって、腸ねん転を患い、腹が痛んで苦しいからって、自分で腹をかっさばいて腸のねじれを直してしまうような男なのだ。切った腹はどーすんだ、と考えをめぐらすよりも、どうせ死ぬのかもしらんのなら自分でやれることだけはやっとくぜというようなアツさ、あとは医者に縫ってもらえばいいのだ(切るとこからやってもらえよ)、それでも死ぬのなら死ぬさという淡白さ。
「何事にもアツい」とか「何事にも淡白」より、どういうところでアツくなるか、淡白になるか、ってタイミングに、その人のセンスが一番出ると私は思ってるのだけど、蠣太パターンで私も生活していきたい感じだ。何かと、往生際が悪すぎたり、白けすぎたりと調節がうまくいかないからなぁ、私…などと蠣太を見て思う。

さて、このブ男・蠣太を演じるのは、片岡千恵蔵。実は二役で、蠣太がスパイとして入り込んでいる伊達兵部のとこの切れ者ナンバーワン家臣、原田甲斐も片岡千恵蔵。こっちは、蠣太とは似ても似つかないほどの色男。言われなきゃ気付かないかもしれない化けっぷり。やはり、片岡千恵蔵ってすごい。いや、ほんとに。
とはいえ、甲斐の方は「出た!歌舞伎メーク」のスーパーホワイト&くっきり隈取り顔。昔の時代劇映画って、一人だけ歌舞伎顔ってのが定石なんだろうか。広間で家臣が集められての会合シーンなんて「あんただけやん、そんな顔白いの」という絵になってます。

この原田甲斐(片岡千恵蔵)が宿敵、伊達安芸を斬り、原田甲斐もまた斬られるというお家騒動クライマックスシーンは見どころ!原田甲斐がかっこいいのよ。メークとヘアスタイルの歌舞伎具合と、PUNK風な鎖帷子ってのが合う。非常に合う。そして、斬りかかって斬られる歌舞伎の動きと、その合間に挿入される映像が急に前衛芸術になる。全編通じてずーっとコミカルなのに、この数分の間だけがそうなのだ。こういう撮りかたの思想というか手法は、大いに息子の伊丹十三に、それも初期の作品には受け継がれていたように思う。そうなのです。この「赤西蠣太」の監督は、伊丹万作。

その他、この映画の重要キーワードは「猫」。そしてオープニングの「番傘&ピアノ」です。お洒落すぎる。


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