第8回
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■ ミシミシ、めりめり
  2本めの親不知を抜きました。
右利きだからか、左側はまともに育ったんだけど、右側は、まず4年くらい前に下を抜いた。
その時は、はじめての抜歯体験におののいていたけど、ものの数分でコロリと抜けた。「(これからか・・)←天井のしみを数える心境」「終わりましたよ」「えっもう!?」という感じ。
抜いた歯を見たら、根っこがろくになく、とっても丸っこかった。歯も持ち主に似るらしい。
 
 

でも今回は、そう甘くはないだろう。何しろ、まだ姿を見せていないのに無理矢理抜くんだから。
2ヶ月くらい前から、右奥の歯が痛み出して、てっきり虫歯だと思って歯医者に行ったら、「どれですか?」と言われた。どうやら、歯茎の下の親不知が隣の歯を押して、ごく小さな隙間から菌が入り、身体の抵抗力が弱ったときに痛み出す、というものだったらしい。数日のあいだ様子を見ていたけど、面倒なので抜くことに決めた。


   
  レントゲンで見ると確かに、歯肉にずっぽりと埋まっている。
そして今度は、根っこがしっかりと伸び、奥にくっついている。覚悟した。
ブスブスっと無造作に注射針を刺していく。4回くらい。あっというまに薬がまわっていくのがわかった。
 
 
麻酔がかかった肉に力が加わるのって、何とも言えない感触だよね。痛くはないけど、かといって無感覚でもなく、どこか遠くの方で誰かが何かをやっている、という感じ。
横から力を加えてぐいぐい。ペンチ?想像は広がる。ミシミシという振動が頭蓋骨に伝わる。いや、伝わるどころか、動かされている。歯といっしょに引っぱられている、明らかに!ええっ!? イカから骨・臓物を抜くところとか、昔のマンガの感電表現とか、とっさにいろんなイメージが浮かぶ。
自分の頭蓋骨を実感したのは、産まれて初めてだ。なかなかできない体験だ。骨と肉でできている自分をリアルに把握する。これだけでもう、抜いたかいがあったように思った。

なんかバリバリやられてる気がする。歯を割って、部分ずつ取り去っているんだろうか?そういう話聞いたことある。全く見えず、感覚も遠いので、すべては想像だ。
・・と思ってたら、「はい、終わりました」「えっもう!?」麻酔を打ってから、7分くらいだったろうか。またしても抜歯その瞬間の自覚がないまま、手術は終了した。ハァ、ハァ。喪失感と疲労感。やはり「身体の一部を外す、取り去る」というのは、理屈抜きに疲れることであるようだ。

会計が済むと、お医者が「はいこれ、おみやげ。」と、まっ白い歯をかたどった、高さ4cmくらいのマスコットをくれた。「カラカラ」
開けてみると、抜きたての歯がコロリ。割ったどころか、とてもきれいな状態の歯。若干の歯肉付き。(これがまた、ピュアなピンク色)


   
  不思議なのは、すっぽり歯肉に埋まっていたはずなのに、上下の真ん中あたりに肉がしっかりと付いていたことだ。肉の中にいるときから、そういう構造になっているんだね。
今回抜かなければ、きっと一生日の目を見なかったであろう歯。なのに健気にも、生える気満々だったのだ。

人体は健気だ。

 
       

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